経験的に言って、
作品の本文の訳を作る前に
公式の解説文を訳しておくと色々と便利なので、
LES HUMANOIDES ASSOCIES社公式サイトに記載されている
『Arzach』の解説文をまず訳してしまいたいと思います。
◆ LES HUMANOIDES ASSOCIES社公式サイトの『Arzach』解説文
● LES HUMANOIDES ASSOCIES社公式サイト内『Arzach』解説文
Un des chefs-d'oeuvre de Moebius au plus fort de son art,
dans les annees 70.
Son premier album sous le label des Humanoides Associes.
L'edition definitive d'un des livres emblematiques
d'une periode cle de la bande dessinee europeenne.
70年代に発表された、
メビウスの力量が遺憾なく発揮された傑作のうちのひとつ。
ユマノイド・アソシエ社からは
本作がはじめての作品となっている。
ヨーロッパのバンド・デシネ史上、
もっとも重要な一時代を象徴する一作を、
決定版編集でお送りする。
◆ 『アルザック』一番最初のエピソードはどれか?
『アルザック』(Arzach)は、
1975年にメビウスが中心となって創刊されたベデ専門雑誌
「メタル・ユルラン」(Metal Hurlant)の創刊号に、
はじめて発表されました。
「メタル・ユルラン」と『アルザック』が
バンド・デシネの歴史上どのような意義を持っているかについては、
以下のサイトでとても分かりやすく解説されています。
● 「PLANET COMICS.JP」内「メタル・ユルラン」解説ページ
かいつまんで言うなら、
子供向けの漫画しかなかったベデ界に、
大人向けの芸術性を重視した作品が登場するきっかけになった、
ということになるでしょうか。
ストリップからストーリー漫画への移行、
という点も強調しておいて良いでしょう。
[
基本用語解説]
「メタル・ユルラン」誌については
以下のサイトがすばらしく詳しいです。
● 「BD oubliees」内「メタル・ユルラン」のページ
● 同上内「メタル・ユルラン」発刊年一覧
● 同上内「メタル・ユルラン」1975年のページ
● 同上内「メタル・ユルラン」1976年のページ
● 同上内「メタル・ユルラン」所収の『アルザック』一覧
上記サイトの記述によると、
『アルザック』は「メタル・ユルラン」の1975年~1976年の号に
発表されたようです。
一番最初の作品は「メタル・ユルラン」1975年第1号に発表された
合計8ページのエピソードのようです。
ここで、この一番最初の8ページのエピソードについて、
もう少し詳しく検討してみましょう。
アルバム『アルザック』には、
四つのまとまった「アルザック」のエピソードが収録されています。
(一番最初のモノクロの作品は、
『LA DEVIATION』〔まわり道〕という
「アルザック」とは別個の作品です。
アルバム『アルザック』には2種類の作品が併録されているのです)
簡単に確認しておきましょう。
*便宜的にそれぞれのエピソードに題名を付けてあります。
ページ数は2000年1月発行のNouvelle edition, ISBN:2731614080
に拠ります。
(1) 塔のなかの美女のエピソード
題名は「ARZACH」と表記。
21~28ページ(合計8ページ)。
塔のなかに居る美女を奪うために、
塔のうえに居た男と戦い、
いざ美女と対面してみたら……、という話。
(2) 猿の心臓のエピソード
題名は「HARZAK」と表記。
29~36ページ(合計8ページ)。
アニメ『アルザック・ラプソディ』の
「猿の心臓」の元になったエピソード。
肉食植物の繁茂する荒野で一休みするために、
休憩地を賭けて大猿と知恵くらべをする話。
(3) 美しき修理士のエピソード
題名は「ARZACH」と表記。
37~44ページ(合計8ページ)。
アニメ『アルザック・ラプソディ』の
「美しき修理士」の元になったエピソード。
古代遺跡のような建物のなかにある機械を
ある修理士が修理すると、
モニターにアルザックの様子が映し出され、
それまで気を失っていた翼竜が目を覚ます様子が映される、
という話。
メタ的な構造をもつ話。
(4) アルザックがのぞきをするエピソード
題名は「HARZACH」と表記。
45~49ページ(合計5ページ)。
かなり支離滅裂な話なので、要約は困難。
45~46ページ、47~49ページ、という
二つのエピソードに分かれているのかも知れない。
まず確認しておきたいのは、
「アルザック」の一番最初のエピソードは
「Arzach」という題名の8ページのエピソードだという点です。
● 「BD oubliees」内「メタル・ユルラン」所収の『アルザック』一覧
一番最初のエピソードは(1)か(3)のいずれかのはずです。
ここで(3)のストーリーの構造に着目してみましょう。
(3)では、
話のメインになっているのはあくまで修理士の物語で、
アルザックは修理士の眺めるモニターのなかに映し出されるだけです。
つまりこの話は、
すでに存在している「アルザック」という作品の
一種のパロディーとして構想されているのです。
(3)が一番最初のエピソードである確率は低いと言えるでしょう。
要するに、
一番最初に発表されたエピソードは(1)だと考えられるわけです。
もちろん実際に「メタル・ユルラン」創刊号を見てみないと
どうしようも無いのですが、
確率としては一番高いのではないでしょうか。
いまのところは、この(1)のエピソードこそが、
バンド・デシネの歴史に革命を起こした当の作品、
としておきたいと思います。
《追記》
これも厳密に言うなら確実なソースではないのですが、
(1)が一番最初に発表された「アルザック」とする
もう一つの傍証を確認しました。
● 「MAJOR GRUBERT」内「textes interviews」
アルファベット順にアイコンが並んでいるなかの
「ComicJournal118 17」をクリックしてください。
アメリカのコミック専門誌に掲載された
メビウスのインタビュー記事の画像です。
ここに(1)の最初の1ページが図版として掲載されていますが、
この図版のうえのキャプションに以下のようにあります。
Where it all began:
The first installment of
“Arzach,” also in the
first Metal Hurlant.
すべてはここから始まった:
「アルザック」の連載第1回。
おなじく創刊号の「メタル・ユルラン」誌に
掲載されたもの。
原文中「installment」は「連載ものの一回分」という程の意味なので、
「アルザック」全体ではなく、
連載第1回の「アルザック」を特定して言っていると考えて良いでしょう。
まさしく、すべてはここから始まったわけです。
《付記その2》
本稿は、後日訳文の見直しをしてから、
『アルザック』の解説記事に組み込む予定です。