邦訳版を含め『ランカル 1』各版の画像が手に入ったおかげで、
改訳作業がとても助かっているのですが、
どうしても分からないことがあるので、
ちょっと書き出しておきたいと思います。
◆ ジョン・ディフールの私立探偵ライセンス
問題は、「ランカル」シリーズの主人公ジョン・ディフールの職業、
私立探偵の等級に関することです。
ジョン・ディフールが「CLASSE R」の私立探偵だということは、
作中でたびたび語られていることなのですが、
この「CLASSE R」、英訳版と邦訳版を見てみると、
それぞれ「CLASS-B」「B級」と訳されていることが分かります。
● moebi-romさんのYAHOO! PHOTOS>『ランカル 1』各版の画像
これが分かりません。
「CLASSE B」が「B級」と訳されているのなら何も問題はありません。
しかし、なぜ「R」が「B」として訳されなければならないんでしょうか?
◆ 「R」なのか「B」なのか
手元の仏和辞典
『プチ・ロワイヤル仏和辞典 [改訂新版]』
(倉方秀憲他編集、1986年1月10月初版発行、1996年1月10日改訂新版発行、
旺文社、参照したのは2002年発行の重版)
には、
「R, r /[発音記号]/ 〔男性名詞〕エール(フランス字母の第18字)」
とあるのみで、とくに「B級」の根拠になりそうな記述は見当たりません。
「CLASSE」のほうも同様に、参考になりそうな記述は見当たりません。
また、オンラインで引けるおそらく最大のフランス語辞典、
「Le Tresor de la Langue Francaise informatise」(略称TLFi)
(当サイト右柱>リンク>《辞書》>::::::TLFiからアクセス可)
という仏仏辞典があるのですが、
そこでも、参考になりそうな記述は見当たらないように思います。
● 「TLFi」内「R, r, lettre」
● 「TLFi」内「CLASSE, subst. fem.」
「TLFi」というのは無茶苦茶すごい辞典で、
おそらく日本語の『日本国語大辞典』に相当するような
いわゆる「大辞典」の類だと思うのですが、
ここで特に参考になる記述が見つからないというのは絶望的です。
乏しい経験から言って、「TLFi」にはまずほとんどの語が採用されていて、
他ではまったく分からなかった語の意味などが、
この辞典のおかげで分かった、
ということが今まで一度や二度ではなかったからです。
また、グーグル・フランスで検索をかけてみても、
ヒット数自体は結構あるものの(僕が検索した時点で797件)、
参考になりそうなページを見つけることは出来ませんでした。
● グーグル仏で「"CLASSE R"」を検索
面白いのは、自動車会社メルセデスが、
自社の車につける等級に「Classe B」と「Classe R」の二種類を
用意しているということです。
● 「Autotitre.com」内「Mercedes Tourer Vision R et Vision B...」
● 「CARADISIAC.com」内「Mercedes Classe B, un rival de taille...」
僕は、メルセデスの「Bクラス」と「Rクラス」がそれぞれ具体的に
どういう車なのかはまったく知りませんし、
あくまで一自動車会社の等級の話なので
決定的な根拠にはならないと思いますが、
すくなくとも、
「Rクラス」と「Bクラス」を別個の等級とする例があることは、
確かなようです。
いろいろと調べては見たのですが、
「CLASSE R」と「B級」の関係について、
参考になりそうな情報はこれ以上見つけることは出来ませんでした。
◆ まさかとは思うが、誤読なのか?
ただ、反対に、
「CLASSE R」と「B級」との関連性を示す情報がほとんど見当たらない、
ということが、大きな意味を持つようにも思います。
(とくに、「TLFi」に何の記述もないことがあやしい)
「R」を「B」と読み間違えてしまうというのは、
容易に想像のつくことです。
ジョン・ディフールも、作中では決してかっこいい役としては
描かれていません。
いかにも「B級」という感じの男ではあります。
つまり、そういったことが相俟って、
「R」が「B」と誤読されているのではないか、
と思うのです。
◆ 結局「Rクラス」を採用しておきたい
もちろん、プロの翻訳家の訳で、しかも英訳版、邦訳版そろって
「CLASS-B」「B級」となっていることは、容易に看過できない事実です。
しかも、作中にたびたび登場する「CLASSE R」をすべて誤読するというのも、
さすがに無理のある推論だと思います。
もしかしたら、僕が知らないだけで、
現代フランス語では「CLASSE R」は「B級」という意味で使われる、
という暗黙の了解的なものがあるのかも知れません。
また、僕の調べ方が見当違いなだけなのかも知れません。
ただ、やはり、ちゃんとした根拠が分からないうちは、
先例に従う気になれないのです。
と、言うことで、
訳文を読んでもらう人にとってははっきり言ってどうでもいいような
無茶苦茶細かいことだとは思うのですが、
まあ、ちょっと長めの訳注、のようなものとして、
一応調査の過程をアップしておきたいと思います。
もしかしたら、
フランス語ペラペラの親切な人が何か知恵を授けてくれるかも知れない、
なぁんていう淡い期待が込められていたりするような、しないような、
って感じなのですが……。はっはっはっ。