メビウスと宮崎駿の対談動画の文字おこしと和訳の準備稿です。
動画の詳細は以下の記事を参照してください。
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メビウス&宮崎駿の対談動画6種]
メビウスの発言は動画の字幕をそのまま写してあります。
宮崎駿の発言は、読みやすさを考慮して、
かならずしも厳密には文字おこしはしていません。
表記の形式は以下のようになります。
フランス語(メビウスの発言)
メビウス:
日本語(メビウスの発言の和訳)
宮崎:
日本語(宮崎駿の発言)
「*」(アステリスク)から始まる文書は訳注です。
今日は抜粋動画その1です。
Au niveau du travail,
c'est vrai que d'abord,
on est a peu pres de la meme generation,
et on a commence a travailler
dans un contexte qui etait commun,
et ca, deja, c'est une forme...
de similitude.
Ensuite, il y a eu des sensations.
Mais je ne sais pas comment
M.Miyazaki a percu mon travail.
Pour moi, c'est tres mysterieux.
J'aimerais savoir comment
il a rencontre mes dessins.
Par quels canaux il les a connus.
Si ce sont des canaux professionnels...
メビウス:
*メビウスが、『風の谷のナウシカ』を初めて見た時のことを
話しているのだと思います。
もしかしたらメビウスのこの発言のまえに、
宮崎駿が、漫画の『ナウシカ』を描き始めたばかりのころ、
メビウスの真似だと非難されていたことを
話しているのかもしれません。
『ナウシカ』の絵柄は、
メビウスの影響を顕著に受けていることで有名です。
作品を描き始めたばかりの頃というのは、
同じ世代の人間の影響を受けるものですよ。
みんな、互いに似たような環境のなかで、
制作を始めるものでしょう?
何と言うか、摸倣することから全てが始まるんですよ。
その次に初めて、
独自のフィーリングみたいなものを表現できるようになるんだ。
でも、私のばあいは、
宮崎さんが私の作品を見て感じ取ったようには行かなかった。
私のばあいは、「謎」からすべてが始まったんです。
この日本の漫画家は、
いったいどうやって僕の作品に出会ったんだろう?
いったいどんな手段を使って知ったんだろう?
プロの漫画家のツテでも頼ったんだろうか?
そういう謎を、とにかく知りたいと思ったのです。
宮崎:
メビウスさんの『アルザック』が、
1975年だったと思うんですけどね、
僕が出会ったのは1980年ごろですが、
大変な衝撃を受けました。
それは私だけじゃなくて、
日本の漫画家たちが、全体が、大変な衝撃を受けたんです。
ただ残念なことに、僕が出会った時には、
自分の絵がずいぶん固まっていて、
彼の影響を本当に上手に自分の発展のうえに役立てるってことは
出来なかったんですが。
でも、メビウスさんの空間感覚は、
いまだに本当に魅力を感じています。
『ナウシカ』って作品は、
明らかにメビウスの影響によってつくられたものです。
C'est vrai que quand j'ai vu
Nausicaa de la vallee du vent...
Ca prouve que l'influence
importe peu, au fond.
Ce qui compte,
c'est qu'il y ait eu une communaute,
une certaine
communaute d'inspiration
qui preexistait
a la rencontre consciente
et qui fait que
au-dela des cultures,
et au-dela du temps ou de l'espace.
on peut rencotrer quelqu'un
avec qui on se sent en phase.
メビウス:
私がはじめて『風の谷のナウシカ』を見た時、
影響関係がどうのこうのなんてのは、
本当にどうだっていいことだと思いました。
そんなことはあくまで下地に過ぎないんだと。
本当に大切なことは、
この作者とは何かを共有しているんだ、という実感だったんです。
共通のインスピレーション、とでも言うか、
とにかくその共有感覚は、
実際に出会って意識するようになる前にすでに存在していて、
文化の違いだとか、時代の違いだとか、場所が離れているだとか、
そんな差を越えてしまっているものだと感じたんです。
人は、自分とまったくおなじ世界に生きる誰かと、
出会うことが出来るものなんだな、と。
宮崎:
あぁ、なるほどね。
Moi, ce qui m'a frappe,
ce ne sont pas nos similitudes.
C'est qu'on puisse voir
des ressemblances
alors que tant de choses
nous separent.
Parce que, ce qui m'a toujours
frappe chez M.Miyazaki,
c'est le fait d'avoir ete
presque un chef d'entreprise,
un chef d'industrie.
Le cinema d'animation,
je sais que
c'est une entreprise industrielle
qui demande beaucoup de pouvoir,
puis'il faut emmener
jusqu'a 100, 150 ou 200 personnes...
Et moi, ce qui m'epate,
c'est la permanence et la qualite
de son inspiration
malgre cette lourde machinerie,
sur des anness et des annees.
Je trouve ca
absolument fantastique
et c'est la chose
que j'admire enormement.
Moi qui suis tout seul,
qui suis solitaire.
メビウス:
とにかくショックを受けたんです。
私の猿真似、なんてとんでもない話ですよ。
むしろ、ほとんど接点なんてあるはずがないのに、
同じものを共有している仲間に出会うことが出来た、
という確信がありました。
それだけじゃない、宮崎さんの作品を観るたびに驚かされるのは、
あなたが一企業の社長というか、経営者も兼任している、
という事実なんですよ。
ひとたびアニメ映画をつくるとなると、
ひとつの企業のようなものを組織して、
それを運営して行くために、
とても多くの力量が必要になってくるものでしょう?
100人、150人、200人、とか、
とにかく多くの人間を統率して行かなくちゃならない。
もう本当に、それは凄いことですよ。
何年も何年も、つねに休まず、
なおかつ質の高いインスピレーションを出し続けて行くことが出来なければ、
とてもじゃないが、そんな作業を続けて行けるものじゃない。
それは本当に、並外れて凄いことですよ。
あなたの仕事ぶりには本当に感心するしかない。
私はずっと一人で、孤独にやって来たから。
宮崎:
いや、僕は、アニメーションの現場の、
工場の、工場長だと思ってやってるんです。
経営者という発想は全然ありません。
職工の職工長、職人の親分という、
そういう風な気持でやってます。
*じつは、メビウスの発言中の「un chef d'industrie」というのは
「工場長」と訳されてしかるべき語だと思うのですが、
宮崎駿のこの発言と矛盾しないように、あえて訳してありません。
おそらく同時通訳の人が「会社の経営者、社長」という風に
訳してしまったのだと思います。
ちなみに、「職人の親分」というのは
「patron d'artisans」(アルチザンのパトロン)と訳されているようです。
C'est interessant de savoir ca
car c'est un grand mystere.
L'autorite et le pouvoir
de M.Miyazaki
s'expriment d'une facon
invisible et magique.
Ca prouve que
d'une facon magique...
l'autorite et le pouvoir
de M.Miyazaki
s'expriment d'une facon invisible.
メビウス:
それはおもしろいですね。
それは、私にとっては大きな謎です。
私は、宮崎さんの作品には、
宮崎さんの影響力というか支配力のようなものが、
目には見えない、何か不思議な感じで、
ちゃんと表現されているように思うんです。
不思議な感じではあるけれど、確実に、というか、
目には見えない形で、
宮崎さんの影響力というか支配力のようなものが、
表現されていると思うんですよ。
《補記》
対談中、映画の制作の話が出てきて、
メビウスが宮崎駿の仕事ぶりにとにかく関心している、というような
話題が出てきますが、
メビウスも、たとえば『ブレードランナー』や『エイリアン』、
『トロン』『ウィロー』『時の支配者』といった映画の
デザイナーとしてとても有名です。
ただ、メビウスが関わって結局企画倒れになってしまった映画というのも
実はたくさんあって、ホドロフスキー監督の『デューン』
(のちにリドリー・スコット監督で完成されますが)、
『スターウォッチャー』『The City of Fire』といった
幻の映画も多いようです。
また、現在メビウスはフル3DCGのアニメ映画
『THRU THE MOEBIUS STRIP』の制作に企画段階から関わっていて、
いまもなお製作中のようですので、
そこらへんの感懐も混じっているのでしょう。
その『THRU THE MOEBIUS STRIP』に関連したインタビューのなかで、
理想的なアニメ映画監督として大友克洋と宮崎駿の名前を挙げて、
二人の作品を褒めまくっていたりします。
くわしくは以下の記事を参照して見てください。
[
インタビュー:『THRU THE MOEBIUS STRIP』(AWN)抄訳]
*記事の一番最後のパラグラフです。
本展関連の他の記事については、
以下の記事を参照してください。
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