メビウスと宮崎駿の対談動画の文字おこしと和訳の準備稿です。
動画の詳細は以下の記事を参照してください。
[
メビウス&宮崎駿の対談動画6種]
メビウスの発言は動画の字幕をそのまま写してあります。
宮崎駿の発言は、読みやすさを考慮して、
かならずしも厳密には文字おこしはしていません。
表記の形式は以下のようになります。
フランス語(メビウスの発言)
メビウス:
日本語(メビウスの発言の和訳)
宮崎:
日本語(宮崎駿の発言)
「*」(アステリスク)から始まる文書は訳注です。
今回は抜粋動画その4です。
今回は、識者のご教授を承りたい、なんて点が少々あったりします。
Je voudrais poser, si je peux,
une petite question.
Enfin, faire une petite observation
sur quelque chose
qui m'a frappe des le debut.
C'est le fait
que M.Miyazaki se soit...
se soit inspire dans pratiquement
tous ses films fantastiques,
de l'Europe et de mythologie
ou d'espaces europeens,
que ce soit l'Italie
a travers Porco Rosso.
ou une espece d'Alllemagne idealisee
a travers Kiki la petite sorciere
et Le Chateau,
et meme dans Nausicaa
ou ce pourrait etre la Finlande...
C'est une perception de l'Europe
qu'on sent tres lointaine,
idealisee et sympathique,
amoureuse,
un peu comme nous
quand on regarde le Japon.
Par contre,
j'ai trouve que des films comme
Totoro, Princesse Mononoke
et Le Voyage de Chihiro,
d'un seul coup representent...
une rentree chez soi
qui est tres emouvante aussi.
Et j'aime les deux.
J'adore ca.
Je trouve que ca remet
la planete a l'endroit.
メビウス:
もし良ければ、ちょっと聞きたいことがあるんです。
僕があなたの作品を昔から見続けてきて、
一体何にこんなに感動するんだろう、って考えてみたんですよ。
それはつまり、
宮崎さんの作品が、そう、あなたのファンタジー映画のほとんどすべてが、
ヨーロッパの文化や神話、
あとはヨーロッパの風土なんかに、
インスピレーションを受けているということ。
たとえば、
『紅の豚』がイタリアにインスピレーションを受けているとか、
『魔女の宅急便』や『ルパン三世 カリオストロの城』で、
観念化された形ではあるけれども、ドイツの風土が描かれていること、
そして、『風の谷のナウシカ』が、
あれはたぶんフィンランドあたりを意識しているんじゃないかと思うんですが、
そういったヨーロッパのイメージというか、
僕たちからすると実情からはかけ離れているようなヨーロッパのイメージ、
観念化されていて、美化されている、
良いイメージが描かれていますよね。
それはたぶん、僕たちが日本の姿をイメージするときと
結構似ているんじゃないかと思います。
ところでそれとは反対に、
『となりのトトロ』や『もののけ姫』、
『千と千尋の神隠し』などになると、
こんどは一挙に、原点回帰をするようになるでしょう?
それもまた僕は大好きなんですよ。
どちらも大好きだ。
すばらしい事だと思います。
僕は、そういういったことが、
この世界を、より良い方向へ向かわせるんじゃないかと思うのです。
*『ルパン三世 カリオストロの城』について、
訳文にいまいち確信の持てない点があるので、
下記の《補記》を参照してください。
宮崎:
もちろん自分のなかに、
マイナスの部分や冷たい絶望的なものはたくさん持っていますが、
絶望的なことや悲観的なことはいっぱい持っていますが、
子供達が観るであろう映画に、
それを盛り込もうとはあまり思っていません。
むしろ、どういう風にすれば明るい映画がつくれるのか、
自分が明るい気持になれるのか、
それを一生懸命考えます。
C'est bien!
すばらしい!
*この部分は「tres bien」(トレビヤン、素晴らしい)と
言っているように聞こえます。あまり自信はないんですが。
《補記》
宮崎駿作品の海外展開については、以下のサイトを参照しています。
● 「くろねこ亭」(ジブリアニメの海外進出情報を提供するページ)
◆ その「城」は空にあるのか地にあるのか?
さて今回の問題は、メビウスの発言中、
僕が『ルパン三世 カリオストロの城』と訳しておいた一節にあります。
ここは原文では「Le Chateau」とだけしか言われていなくて、
これをどう訳したものか迷っています。
この部分は、字幕では
「Kiki la petite sorciere et Le Chateau」
(直訳すると、「『キキ 小さな魔女』と『城』」)
とされていますが、
実際には
「Kiki et Le Chateau」と言っているように聞こえます。
(直訳すると、「『キキ』と『城』」)
いずれにせよ「Le Chateau」とだけしか言われていなくて、
この語は、「シャトー」と言えば分かってもらえると思いますが、
フランス語で「城」という意味の語です。
宮崎駿作品で「城」と言えば、
『ルパン三世 カリオストロの城』と『天空の城ラピュタ』があるでしょう。
さすがに『ハウルの動く城』はここでは除外して良いと思います。
↑記事をアップしてから改めて思ったのですが、
『ハウルの動く城』の可能性もあながち捨て難いような……。
フランスとドイツの国境の街がモデルになっていることが知られています。
う~ん、困ったな……。
◆ メビウスは『ラピュタ』も『カリオストロ』も観ているのか?
『天空の城ラピュタ』のフランス版のタイトルは、
「LE CHATEAU DANS LE CIEL」(天空の城)であることが、
「くろねこ亭」さんの記述から知ることが出来ます。
● 「くろねこ亭」内「ラピュタ世界公開のページ」
『ルパン三世 カリオストロの城』に関しては、
僕が見たかぎりでは、「くろねこ亭」さんのなかでは、
仏版のタイトルについての記述を見つけることは出来ませんでした。
いまパリで開かれている「宮崎駿―メビウス」展の公式サイトによると、
「Le Chateau De Cagliostro」(カリオストロの城)と
表記されていることが分かります。
● 「宮崎駿―メビウス」展公式サイト
● 上記公式サイトの該当箇所の和訳(当サイトの記事です)
また、『天空の城ラピュタ』については、
メビウスが実際に観たことがある、ということを
メビウス本人の発言から確認することが出来ます。
● [
宮崎駿とメビウスの対談]
『ルパン三世 カリオストロの城』については、
メビウス本人の発言等、
観たことがある、と確実に言い切れるだけのソースは、
僕の知る限りではありません。
ただし、メビウスは、たとえば
自分の娘に宮崎駿作品のヒロインの名前をつけるくらいに
重度の宮崎駿ファンですし、
上記の対談記事のなかでも、
手紙のやりとりをしたり、
『となりのトトロ』のビデオを宮崎駿から送ったり、
といった発言があるので、
当然、観たことがあると考えておいて良いと思います。
いずれのタイトルにも「Le Chateau」という語が含まれるので、
これだけではどちらかに絞ることは出来そうにありません。
◆ ドイツのイメージとロケーションハンティング
となると、メビウスが「観念化されたドイツの風土」
(une espece d'Alllemagne idealisee)が描かれている、
と発言していることが、唯一の手掛りになるのではないかと思います。
『天空の城ラピュタ』は、製作にあたって
イギリスのウェールズ地方でロケハンが行われたことが知られています。
(「ロケハン」というのは、製作の参考にするために、
映画のモデルになりそうな場所の調査をすることです)
● 「ウェールズへの招待」内「天空の城ラピュタ」
● 「高畑勲・宮崎駿作品研究所」内「宮崎駿の創作論」
一方、『ルパン三世 カリオストロの城』については、
ロケハンについてはあまり話題にのぼることがない一方で、
劇中のカリオストロ城が、
ドイツのノイシュヴァンシュタイン城にそっくりだと言われることが、
よくあるように思います。
● 「ニューシネマパラダイス」内「第2回」
● 「ニゴの海外旅行記」内「Germany」
ただし、カリオストロ城のイメージについては、
たとえば下記のようなページもあって、
一概にドイツと言い切ることも出来ないようにも思います。
● 「旅ノススメ」内「遺跡ノススメ」
同じページ内にノイシュヴァンシュタイン城の項目が立っているにも
かかわらず、フランスのモン・サン・ミッシュエル城こそが
カリオストロ城のモデルだとされています。
● 「日本の正しい映画の見方を教える市民の会」内「#48:2001年6月12日」
スペインのアルカサル城が一番よく似ている、とされています。
さらに、
『天空の城ラピュタ』に出てくる武器がドイツ軍のものを想起させる、
とされている発言などもあったりましす。
● 「究め! 天空の城ラピュタ」内「ミリタリーラピュタ」
◆ 結局、『カリオストロ』としておきたい
結局、あくまでメビウスがどう感じたか、という問題なので、
確実な根拠などは出しようがない問題ですし、
そもそも実際には「城」とだけしか言われていないのですから、
どちらともとれる曖昧な発言として、
「城」とだけ訳しておくのが一番良いとも思います。
メビウスの発言そのものが、
日本人のヨーロッパ観とヨーロッパ人のヨーロッパ観はぜんぜん違う、
というような趣旨の発言だったりするので、
僕たち日本人がどう感じるか、というのも、
信じすぎるのは危険でしょう。
ただ、やはりできれば具体的な作品を当てて訳しておいたほうが
読む側にとって分かりやすいだろうし、
メビウスも頭のなかでははっきりとどちらかの作品を想定して
「城」と言っているのでしょうから、
ここは、劇中の城そのものがドイツの城に似ているという意見の多い、
『ルパン三世 カリオストロの城』を採っておきたいと思います。
僕自身も、『カリオストロ』のほうがドイツのイメージに近いと思います。
できれば確実な根拠となり得るようなものを
教えてくれる人がいないかなぁ~、なんてことを考えながら、
訳注として付記しておくことにしました。
《補記の補記》
ここは、「城」と名のつく作品が三つもあるのにも関わらず、
ただ「城」と言うだけで話が通じる、とメビウスが思っている、
ということを重視したいと思います。
ただ「城」と言うだけでは、
『ルパン三世 カリオストロの城』
『天空の城ラピュタ』
『ハウルの動く城』という
三つの作品のうちどれを指しているのかすぐには分かりません。
(『ハウルの動く城』のフランス版タイトルは、
「LE CHATEAU AMBULANT」です。
蛇足ですが、一部で、この仏版タイトルは直訳すると
「旅をする城」という意味になる、という意見があるようですが、
僕はなぜそうなるのかがどうもよく分かりません。
「LE CHATEAU AMBULANT」は
原題の「動く城」のとてもうまい訳になっていると思います。
当然、直訳しても「動く城」だと思います)
ドイツが描かれている、という点を考慮してみても
確定には至らないと思います。
ここで、問題の設定の仕方そのものを変えてみたいと思います。
なぜメビウスはそんな曖昧なものの言い方をしたのか?
だた「城」とだけ言えばじゅうぶん分かってもらえると、
考えていたからではないでしょうか?
この場は、メビウスと宮崎駿が、さっきまで
『ハウルの動く城』について語り合っていた場です。
つまりこの場では、
「城」といえば『ハウルの動く城』だという暗黙の了解が成り立っている
のではないでしょうか。
訳文の訂正は決定稿で行います。
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