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パリで開かれている
「宮崎駿―メビウス」展に際して行われた
メビウスと宮崎駿の対談動画の文字おこしと全和訳です。
動画の詳細は以下の記事を参照してください。
[
メビウス&宮崎駿の対談動画6種]
この記事には抜粋動画その4~5が収められています。
抜粋動画その1~3については以下の記事を参照して下さい。
[
メビウス&宮崎駿対談動画:文字おこしと全和訳1]
青色の部分はDVD収録版でカットされている箇所です。
[
『ハウルの動く城』DVDレポート(メビウス関連のみ)]
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◆ 抜粋動画その4
Je voudrais poser, si je peux,
une petite question.
Enfin, faire une petite observation
sur quelque chose
qui m'a frappe des le debut.
C'est le fait
que M.Miyazaki se soit...
se soit inspire dans pratiquement
tous ses films fantastiques,
de l'Europe et de mythologie
ou d'espaces europeens,
que ce soit l'Italie
a travers Porco Rosso.
ou une espece d'Alllemagne idealisee
a travers Kiki la petite sorciere
et Le Chateau,
et meme dans Nausicaa
ou ce pourrait etre la Finlande...
C'est une perception de l'Europe
qu'on sent tres lointaine,
idealisee et sympathique,
amoureuse,
un peu comme nous
quand on regarde le Japon.
Par contre,
j'ai trouve que des films comme
Totoro,
Princesse Mononoke
et
Le Voyage de Chihiro,
d'un seul coup representent...
une rentree chez soi
qui est tres emouvante aussi.
Et j'aime les deux.
J'adore ca.
Je trouve que ca remet
la planete a l'endroit.
メビウス:
もし良ければ、ちょっと聞きたいことがあるんです。
僕があなたの作品を昔から見続けてきて、
一体何にこんなに感動するんだろう、って考えてみたんですよ。
それはつまり、
宮崎さんの作品が、そう、あなたのファンタジー映画のほとんどすべてが、
ヨーロッパ
の文化や神話、
あとはヨーロッパの風土なんかに、
インスピレーションを受けているということ。
たとえば、
『紅の豚』がイタリアにインスピレーションを受けているとか、
『魔女の宅急便』や『ハウルの動く城』で、
理想化された形ではあるけれども、ドイツの姿が描かれていること、
そして、『風の谷のナウシカ』が、
あれはたぶんフィンランドあたりを意識しているんじゃないかと思うんですが、
そういったヨーロッパのイメージというか、
遠く夢みるような、
理想化されていて、美化されている、
好ましいイメージが描かれていますよね。
それはたぶん、僕たちが日本の姿をイメージするときと
結構似ているんじゃないかと思います。
ところでそれとは反対に、
『となりのトトロ』や『もののけ姫』、
『千と千尋の神隠し』などになると、
こんどは一挙に、原点回帰をするようになるでしょう?
それもまた僕は大好きなんですよ。
どちらも大好きだ。
すばらしい事だと思います。
僕は、そういういったことが、
この世界を、より良い方向へ向かわせるんじゃないかと思うのです。
宮崎:
もちろん自分のなかに、
マイナスの部分や冷たい絶望的なものはたくさん持っていますが、
絶望的なことや悲観的なことはいっぱい持っていますが、
子供達が観るであろう映画に、
それを盛り込もうとはあまり思っていません。
むしろ、どういう風にすれば明るい映画がつくれるのか、
自分が明るい気持になれるのか、
それを一生懸命考えます。
C'est bien!
メビウス:
すばらしい!
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◆ 抜粋動画その5
宮崎:
メビウスさんの話をしたいんですけどね。
Posez-moi des questions.
メビウス:
どうぞ、何でも訊いてください。
宮崎:
彼はどこであの絵を修行したんでしょう?
メビウスさんの絵は
どういう勉強をして身に付けていったものなんですか?
J'ai eu l'outrecuidance,
vers l'age de 12-13 ans,
de penser que j'etais
le meilleur dessinateur du monde!
Et apres, j'ai passe ma vie
a essayer de rattraper la croyance.
Par moments, j'ai l'impression
de savoir tres bien dessiner,
et parfois, j'ai l'impression
d'etre un dessinateur tres naif...
et peu savant.
メビウス:
12,3歳のころは、
自分は世界で一番すごい漫画家だ!
なんて自惚れていたもんですよ。
でも後になってから、今度は、
自信を取り戻すのにずいぶんと苦労をするようになりました。
ときには、
自分は漫画についてなんでも知っているぞ、
なんて思うときもそれはありますよ。
でもね、
自分は漫画家としてなんて世間知らずなんだろう、
って思うこともあるんです。
あまりにも物を知らなさ過ぎる、と。
宮崎:
彼は、やっぱり、「星」があたったんですよ。
流れ星が。
Oui.
メビウス:
ああ、そうさ。
宮崎:
そう思います。
Oui, c'est une etoile filante,
tout a fait.
Qui est restee!
メビウス:
そうとも、流れ星、まったくその通りだ。
その星のかけらが、まだ僕の中に残っているってわけさ。
宮崎:
だって、本当に、僕らがどれほど、メビウスさんの絵をみて驚いたか。
ちょっと表現の仕方が分からないんですが、
世界をこういう風な眼で眺めることが出来るんだ、という驚きでした。
J'ai essaye de travailler
plus sur la perception
que sur la technique du dessin.
メビウス:
僕は、漫画を描くときには、
テクニックよりも、
どう感じるかを大切にしようと思っていますよ。
宮崎:
世界に対する考えと技術というのは、
一体のものだと僕は思います。
メビウス:
Je suis obsede
par le technique.
En meme temps,
je pense que tous les grands artistes
ont travaille sur la perception.
Qu'est-ce qui fait
que tout a coup,
on est etonne par une oeuvre ?
Que ce soit un ecrivain,
un musicien ou autre,
c'est que tout a coup, il montre
une chose qu'on a tous sous les yeux
mais que personne n'avait vue.
Ou personne ne l'avait vue
avec cette verite-la.
Parfois, ca peut etre
des petits details,
ca peut etre le bout des ongles,
la facon dont les cheveux bouclent,
la quantite d'informations
qu'on met pour montrer un oeil...
Par exemple, sur quelqu'un qui court,
c'est le moment
ou on arrete le mouvement,
le pied est
a tant de centimetres du sol.
On ne l'avait jamais fait avant.
Des petites choses comme ca...
メビウス:
確かにテクニックは大事ですよね。
でもそれと同時に、
世の偉大なアーティストたちは、
どう感じるかを大切にして、
作品をつくって来たのではないかとも思うのです。
たとえば、あるとき突然、人がなにかの作品に衝撃を受けたとして、
そこには何が働いているんだろう、って考えてみるんです。
作家にしろ、ミュージシャンにしろ、
とにかく何かを表現する人が、
あるとき突然、目には見えるんだけれども、
でもまだ誰も観たことのないようなものを表現しようとするとき、
まだ誰もそんな感じ方では見たことのないようなものを
表現しようとするとき、
そこには何が働いているんだろう、って。
例えばそれは、
本当にささいなディティールだけの場合もあるかも知れない。
たとえば、爪のほんの先端部分だけだとか、
髪のたなびくちょっとした様子だとか、
眼を描くときに込めた、ちょっとした思いだとか。
たとえば、走っている人間を描くとして、
その動きの中の一瞬だけを切り取って描くようなとき、
片足が地面から何センチも浮いている、その一瞬の描き方だとか。
まだ誰も描いたことのないようなもの。
ほら、ほんの些細なものでいいんだ、たとえばこんな感じの……
*かなり熱く語ってくれているおかげで、
途中から段々とりとめが無くなって来てしまっています。
原文よりももう少し整理した形で訳文を作ってあります。
つぎの宮崎駿の発言も、
とりあえず話題を変えて落ち着こうとしているのでしょう。
宮崎:
本当に単純な線で描いた人物像の向こうに、
メビウスさんの絵は、
向こうに空気があって、
その人物のこっちにも空気があって、
その人物のなかにも、いろいろな質を含めた、孤独な、誇り高い、
孤独で誇り高い、空間があるんです。
それがメビウスの絵の最大の魅力だと僕は思っています。
Merci. ドウモアリガト
メビウス:
ありがとう。ドウモアリガト。
*字幕には「Merci.」(メルシー)としか記されていませんが、
日本語で「どうもありがとう」と言っているように聞こえます。
メビウスは、以前宮崎駿と対談したときにも、
日本語で「さようなら」と言ったことがあります。
その対談については以下の記事を参照してください。
[
宮崎駿とメビウスの対談]
宮崎:
僕は日本の漫画家の、漫画界の多くの人間たちを代表して、
お礼を言わなければいけないと思っています。
J'ai pris beaucoup de lecons
des auteurs de mangas.
メビウス:
僕だって日本の漫画家たちから、
本当に多くのものを学んで来ているんだよ。
《補記》
メビウスと宮崎駿はお互いに熱心なファンどうしで、
深交を結んでいることが知られています。
二人の関係について語り出すと切りがないので、
ここは、二人の関係を端的に表わしている二枚の絵を
紹介しておくことにしたいと思います。
対談中でも触れられていますが、
宮崎駿の漫画『風の谷のナウシカ』は、
メビウスの代表作『アルザック』(Arzach)に
多大な影響を受けていると言われています。
そしてメビウスも、
『風の谷のナウシカ』の大ファンとして知られています。
このような関係を反映してか、なんと、
宮崎駿が描いたアルザックの絵と
メビウスが描いたナウシカの絵というものが、
存在しているのです。
ぜひとも、以下のリンクを見てみてください。
● ARZACH.
正方形のサムネイルが並んでいるところの最下段、
一番左側の絵が宮崎駿が描いたアルザックです。
クリックで別窓で拡大。
アルザックが乗っているのは翼竜なのですが、これは
『ナウシカ』のメーヴェのモデルとしてよく名の挙がるものです。
● 「MAJOR GRUBERT」内「Affiches Dessins Serigraphie>Hommages」
画像ファイルのアイコンが
アルファベット順に並んでいるなかの、
「Miyazaki_Nausicaa」とあるところをクリックして下さい。
メビウスが描いたナウシカです。
ついでに付け加えておきたいのですが、
大友克洋が書いたアルザックと
メビウスが書いた『AKIRA』の鉄男の絵、というものも
存在しています。
それぞれ、上記のリンクの、
・宮崎駿のアルザックの右横の「Katsuhiro Ootomo」とあるサムネイル
・「Miyazaki_Nausicaa」の下の「Otomo Tetsuo」とあるところ
をクリックしてみて下さい。
それぞれの絵の詳細については、下記の記事を参照して下さい。
[
『Arzach』(アルザック)解説]
[
宮崎駿との関連>メビウス作ナウシカのポスター]
最後に蛇足ながら、ちょっとだけ、
付け足しておきたいことがあります。
今回こうやって幸運にも、
メビウスと宮崎駿の対談動画の文字おこしと和訳を
用意することが出来たのですが、
たとえば対談のなかでメビウスが宮崎駿を褒めまくっているからと言って、
「だから宮崎駿はすごいんだ、
やっぱり日本のアニメ(あるいは漫画)は世界一なんだ」
なんていう風に受け止められてしまうとしたら、
僕は、それはとても不幸な誤解だと思っています。
同様に、宮崎駿がメビウスの多大な影響を受けているからと言って、
「やっぱりメビウスはすごいんだ、
宮崎駿なんかより(あるいは大友克洋なんかより)
メビウスの方が数段凄いんだぞ」
なんて考えてしまうのも、
メビウス・ファンの悪い癖だと僕は思っています。
日本の「漫画」とフランスのバンド・デシネは、
そもそも拠って立つ価値観が異なるのです。
その二つを同じひとつの価値観で比較してしまうのは、
(それは得てして、どちらかに都合の良い価値観でしかないのですが)
ナンセンスと言うほかありません。
安易に優劣を競い合うのではなく、
お互いの間にある〈差〉にこそ可能性を見出すこと。
自分たちの文化の文脈にはなかった新しい世界への驚きを大切にすること。
今回の対談の記事が、
そういった新しい世界への扉を開くきっかけになることが出来たなら、
そしてそれが、
日本の「漫画」の新しい可能性を拓くことに繋がることが出来るとするなら、
記事の作成者として、これほど嬉しいことはありません。
《注記》
この対談動画については、
僕の知る限りでは他にあと二つ、
和訳をウェブ上にアップしてくれている例があるようです。
まずその内のひとつは、宮崎駿作品の海外展開についてのサイト
「くろねこ亭」さんで公開されているものです。
● 「くろねこ亭」内「ハウルの動く城関連記事集」
● 「くろねこ亭」トップページ
「くろねこ亭」さんの訳については、
下訳から決定稿を作成する過程で参照させて頂いたことを付記しておきます。
もうひとつの訳については、噂は聞くものの、
ついに現物を参照するには至りませんでした。
訳文は定期的に見直しをして、
そのつど改訳の手を入れて行くつもりです。
訳文はつねに流動的です。
注意して下さい。
当記事のそれぞれの抜粋動画の訳の冒頭には、
半角のアラビア数字でアンカーが打ってあります。
以下のようにURLを指定して頂ければ、
それぞれの訳の冒頭にリンクを張ることが出来るようになっていますので、
参考にして見てください。
http://moebius.exblog.jp/1569749/#1 ←抜粋動画その1へのリンク
http://moebius.exblog.jp/1569749/#2 ←抜粋動画その2へのリンク
http://moebius.exblog.jp/1569749/#3 ←抜粋動画その3へのリンク
http://moebius.exblog.jp/1569742/#4 ←抜粋動画その4へのリンク
http://moebius.exblog.jp/1569742/#5 ←抜粋動画その5へのリンク
本展関連の他の記事については、
以下の記事を参照してください。
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「宮崎駿―メビウス」展関連記事インデックス]
訳文の改定にあたって、
『ハウルの動く城』特別収録版DVD収録の字幕を参照しています。
[
『ハウルの動く城』DVDレポート(メビウス関連のみ)]
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