「宮崎駿―メビウス」展に際して2004年11月29日に行われた
記者会見の記事の抄訳です。
● 「ANIMELAND.COM」内「-Miyazaki Moebius : coup d'envoi-」
● 上記ページの2ページ目
当該記事の「- Miyazaki Moebius : coup d'envoi -」
(――宮崎とメビウス:対決がはじまる――)は
大きく三つの部分に分かれます。
前書きと第一節「Une exposition thematique」
(展覧会のテーマ)は、
即物的な解説が多いので翻訳は省きました。
それよりも、第二節以降で引かれている
メビウスと鈴木敏夫本人の発言が非常に興味深いので、
拙いながら和訳を用意してみました。
よろしければご参照ください。
《注意事項》
・元の文章の直接話法の部分
(発言がそのまま引かれている部分)は
イタリック体で表記されていますが、
読みやすさを考慮して、通常の字体で表記しています。
・メビウスについて全く何も知らない人を想定して、
いくつかの語句に簡単に注をつけてあります。
和訳文中のリンクが貼ってある箇所をクリックして下さい。
それぞれの注に飛ぶようになっています。
注の文章の最後にある
▲をクリックすると、
記事の和訳文の該当箇所に戻るようになっています。
《記事本文と訳文》
Quand MOEBIUS rencontre MIYAZAKI
[この前の1パラグラフ分省略]
Le premier contact entre les deux hommes remonte aux annees 80,
se souvient MOEBIUS :
《je viais alors a Los Angeles.
Mon fils, qui avait environ 10 ans,
frequentait l'ecole franco americaine.
Il y a rencontre une bande de fanatiques du manga,
qui se passaient des cassettes piratees venant du Japon.
J'avais notamment remarque une cassette sans titre,
qui s'est averee n'etre autre que... Nausicaa !
J'etais impressionne, conquis par le genie de MIYAZAKI ;
mais je pensais alors qu'il resterait un auteur esoterique et meconnu.
Puis son talent s'est inscrit dans la duree,
et j'ai suivi son travail (Laputa, Kiki, Totoro...).
J'etais ebloui :
chaque film supplantait l'autre en qualite,
tout en restant fidele aux memes themes.》
MOEBIUS devient ainsi fan de l'oeuvre de MIYAZAKI,
au point d'avoir appele sa premiere fille... Nausicaa!
《Nous avons eu un bon feeling,
car elle ressemble vraiment a une heroine de MIYAZAKI !》
Et MIYAZAKI dans tout ca ?
《Il a decide cette fois de ne pas aller a l'etranger
pour la promotion de son film.
Mais il n'a pas pu decliner l'invitation concernant un evenement
qui le liait a MOEBIUS !》,
explique SUZUKI Toshio.
Le president du Studio Ghibli s'est par la meme declare
《emu, car c'est la premiere fois
que les oeuvres de MIYAZAKI sont exposees en tant que telles.
C'est un homme timide,
gene d'imaginer une exposition basee sur son seul nom.》
Le combat pour la reconnaissance de la BD en tant qu'art pictural
n'est d'ailleurs pas encore tout a fait gagne en France,
comme le rappelait Isabelle GIRAUD,
oeuvrant au sein de Stardom Production :
《nous avons des demandes emanant de l'Espagne, de l'Allemagne,
mais en France,
hormis Angouleme et ponctuellement la Fondation Cartier,
la demande est inexistante.
Il y a une reticence face a la BD.
Maintenant, j'aimerais imaginer une expo encore plus ambitieuse,
voire un lieu permanent destine a accueillir les arts plastiques
tournant autour de la BD, du cinema et du jeu video !》
メビウスがはじめて宮崎作品に出会った時のこと
二人が初めて出会ったのは80年代のことだ。
メビウスは当時のことを思い出しながら、こう語ってくれた。
「私は
当時ロサンジェルスに住んでいました。
私の息子が、10歳くらいの頃だったでしょうか、
現地のフランス人学校に通っていたんです。
そこで、日本の漫画が大好きなグループと友達になったらしくて、
日本のアニメの海賊版のビデオテープをよく貸し借りしているようでした。
で、その中の、
タイトルも書いていないような一本のビデオテープに、
私が、心奪われてしまったんです。
それが他でもない、『風の谷のナウシカ』だったというわけなんですよ。
すっかり参ってしまいましたね。
この「ミヤザキ」という人物は、なんて才能の持ち主なんだ、と思いましたよ。
彼は、当時はまだマニアの占有物でしかなかったというか、
才能の認められていない埋もれた作家、という感じではあったんですが、
それ以降、私もすっかり宮崎駿のファンになってしまって、
次々と作品を観て行くようになりました。
『天空の城ラピュタ』、『魔女の宅急便』
『となりのトトロ』と言った感じでしょうか。
驚きの連続でしたよ。
どれもが本当に素晴らしくて、どれか一本なんてとても決められない、
一本一本が、それぞれのテーマに沿って、
本当に誠実につくられているんです。」
こういう風にして、メビウスは宮崎駿のファンになった。
それが高じて、
自分の長女に「ナウシカ」と名付けてしまったほどだ。
「僕たちは顔を合わせるたびに嬉しくなっちゃうんだ。
だって、彼女は宮崎作品のとあるヒロインに、
とっても良く似ているんだから。」
一方、宮崎駿はどうだったのだろうか?
ジブリの取締役、鈴木敏夫氏が事情を説明してくれた。
「今回宮崎駿は、
映画のプロモーションのために海外に出向くことはしない、
と決めていました。
でも、メビウスさんに会えるとあっては、
招待を断るわけには行かなかったようです。
展覧会については、『感動した』と言っていました。
宮さんの作品がこのような形で展示されることなんて、
初めてのことですから。
あの人は照れ屋だから、自分の名前を冠した展覧会なんて、
きっと恥ずかしがっているんだと思います」
フランスでは、
まだまだ
ベデは絵画芸術としては認知されていないという事情がある。
今回
スターダム・プロダクションの一員として尽力してくれた
イザベル・ジローは、そのような事情を思い起こしながら
次のように語ってくれた。
「スペインやドイツからも、展覧会開催のオファーを頂いています。
しかしここフランスでは、
アングレームと、
あとは
カルティエ現代美術財団で一時的に開催する予定があるほかは、
巡回展のオファーは頂いていません。
ベデを芸術として認めることには、まだまだ偏見があるように思います。
でもいつか、さらに大規模な展覧会を開催したいと思っています。
そしてさらに、ベデや映画、ビデオゲームなどを、
造形芸術として収容することの出来る常設施設を開設することが出来たなら、
本当に素晴らしいと思うんですが」
Accointance d'esprit
Pour l'instant donc,
delectons-nous de cette exposition
dans les locaux prestigieux de la Monnaie de Paris,
mettant en exergue
le traitement de thematiques communs aux deux artistes,
sujet sur lequel MOEBIUS reste intarissable :
《MIYAZAKI traite du sous et du surnaturel.
Dans des films notamment comme Totoro et Mononoke,
les genies des lieux sont emergents,
sollicites ou perturbes per les hommes.
Le Japon conserve des canaux entre tradition et modernite.
Moi-meme, j'ai essaye de traiter ces themes,
mais je n'ai pas le meme bagage culturel.
Pour moi,
MIYAZAKI et TAKAHATA sont les deux expressions d'une meme pensee ;
je considere d'ailleurs Pompoko comme
LE film sur les rapports Homme et Nature par excellence.》
Enfin,
SUZUKI Toshio a rappele
les origines socio-culturelles de ces themes :
《chez les Japonais,
le rapport a la Nature et aux esprits fait partie de la tradition.
Mais avec l'industrialisation,
la relation a la Nature s'est emoussee.
C'est avec la serie Heidi
que MIYAZAKI et TAKAHATA ont voulu redonner aux enfants
l'occation de regarder la nature avec des yeux neufs.
MIYAZAKI reflechit a la meilleure facon de vivre dans ce monde.》
《L'enseignement a devorde le cadre du Japon :
les forces de Nature sont planetaires,
la fragilite unuverselle aussi》,
surencherit MOEBIUS.
On aurait encore aime entendre MIYAZAKI
s'exprimer sur cette expotision,
sur son appreciation du talent de Jean GIRAUD.
Le cineaste japonais a malheureusement decide de
reserver ses apparitions aux cercles tres restreints des VIP
(vernissage du 29 novembre au soir,
avant-premiere VIP du Chateau ambulant le lendemain),
privant ainsi le public et la presse d'echanges directs.
A defaut,
on ira voir dans les salles le Chateau ambulant
(sur les ecrans francais le 12 janvier prochain),
puisque l'on dit souvent que
ce sont les oeuvres qui savent le mieux parler des artistes.
深交の軌跡
さしあたっては、
パリ造幣局のすばらしい展示室で開かれているこの展覧会を
楽しもうではないか。
そして、この二人のアーティストが
おなじテーマのもとに語られる機会が設けられたということを、
記憶に留めておくことにしよう。
そのことに関しては、メビウスもまだまだ語りたりない様子だ。
「宮崎さんの作品は、超自然的な観点から、超自然的なものごとについて、
語っているように思えます。
とくに『となりのトトロ』や『もののけ姫』といった作品には、
人間によって平和を乱された、その土地に住む精霊たちが登場しますよね。
こういった作品は、
日本では伝統と革新がちゃんと地続きになっている、ということの
好例だと思うのです。
私自身もそういったテーマを語ろうと務めてきました。
しかし残念ながら、私は文化的な方面には疎いのですよね。
宮崎さんだけではありません。
高畑さんの作品も、そういった思想を体現している例だと思います。
『平成狸合戦ぽんぽこ』は、なによりも
人間と自然とのつながりについて語っている映画だと思うのです。」
最後に鈴木敏夫氏は、
日本の文化や社会の起源にまで遡るかたちで、
次のように語ってくれた。
「日本人というのは大昔は、
自然や精霊と深く関わりながら生活していたんです。
その関係が、社会の工業化が進んでくると、
だんだんと薄くなって来てしまったんですね。
そこで宮さんや高畑さんは、『アルプスの少女ハイジ』をつくる際に、
もう一度童心に返って、
子供のまっさらな目で自然と向き合おうとしました。
その時に宮さんは、
そういった世界でちゃんと生きるためにはどうすれば良いのか、
ということについて深く考えたんだと思います。」
宮崎駿の作品を高く買っているメビウスも、最後にこう付け加えてくれた。
「そのお話には、日本人以外も学ぶべき点があると思います。
日本人だけではなく全世界の人々が、
自然の猛威にもっと敬意を払わなければならないと思うのです。
それに、自然はもろく、毀れやすいものでもありますからね。」
展覧会のことや、ジャン・ジローの作品についてなど、
宮崎氏の考えもぜひとも伺いたかったのであるが、
監督は記者会見には出席せず、
かろうじて一部のVIPと会う機会を設けただけであった。
(11月29日の晩に開かれた展覧会のプレ公開と、
その翌日に開かれた
『ハウルの動く城』の試写会に現れただけだった)
ファンや報道関係者と直接触れ合う機会が設けられなかったのは、
じつに残念と言うほかはない。
その代わりといっては何だが、
フランスでも宮崎駿監督の『ハウルの動く城』が公開される予定である。
(来年の1月12日から公開予定だ)
宮崎監督自身のことばが聞きたいのなら、まずは劇場に足を運ぼうではないか。
作品こそが、アーティストがもっとも雄弁にものを語る場であるのだから。
《注》
1 メビウスがはじめて宮崎駿の作品に触れたのは、
1984年から1985年のことではないかと思われます。
二人が実際に出会ったのは、
映画『リトル・ニモ』の製作に際してのことで、
1985年と思われます。
くわしくは以下の記事を参照してください。
[
記者会見記事の下訳のまとめ1:「宮崎駿―メビウス」展]
2 メビウスはフランス人で、もともとフランスに住んでいましたが、
1984年から1989年のあいだはアメリカに住んでいました。
80年代は、仕事の関係で他にもいろいろな国を訪れていた時期のようです。
くわしくは以下の記事を参照してください。
[
記者会見記事の下訳のまとめ1:「宮崎駿―メビウス」展]
3 メビウスは過去に一度離婚歴があり、
現在の妻イザベル・ジロー
(Isabelle Giraud、旧姓シャンパヴァルChampeval)
は二人目の妻です。
先妻の名前はクロディーヌ・コナンと言いました。
クロディーヌとの間には
ヘレン(Helene、娘)とジュリアン(Julien、息子)という
二人の子供をもうけています。
ここに言う「私の息子」(Mon fils)は、
ジュリアンのことではないかと思われます。
また、以前宮崎駿と対談をした際に
「息子が宮崎駿の熱烈なファンなんだ」
というようなことを言っているのですが、
これもおそらくジュリアンのことなのでしょう。
ジュリアンこそは、
メビウスと宮崎駿を出会わせた、
ある意味世界の漫画を変えた人物だと言えるでしょう。
くわしくは以下の記事を参照してください。
[
記者会見記事の下訳のまとめ1:「宮崎駿―メビウス」展]
[
宮崎駿とメビウスの対談]
4 『風の谷のナウシカ』については
米国版のビデオが少なくとも2種類発売されていますが、
ここに言うビデオテープはそのいずれでもなく、
1984年3月11日の日本での映画公開初日に同時発売された
日本版のビデオではないかと思われます。
当時のアメリカの熱心な日本アニメファンのあいだでは、
自分達で字幕を作製し、それを入れたビデオテープを貸し借りして、
日本のアニメの視聴とお互いの交流に役立てる、
という習慣があったと聞きます。
おそらくそのような海賊版のビデオテープのことを
言っているのではないかと思われます。
くわしくは以下の記事を参照してください。
[
記者会見記事の下訳のまとめ1:「宮崎駿―メビウス」展]
5 海外での宮崎作品の公開や発売の情報については、
「くろねこ亭」さんを参照しています。
● 「くろねこ亭」(ジブリ作品の海外展開についての専門サイト)
6 注3で言及したようにメビウスには離婚歴があります。
ナウシカ(Nausicaa)は現在の妻イザベルとの間に産まれた娘です。
くわしくは以下の記事を参照してください。
[
記者会見記事の下訳のまとめ1:「宮崎駿―メビウス」展]
[
風の谷のメビウスの娘はネコバスでおおはしゃぎ]
[
メビウスの娘ナウシカちゃんの写真発見]
7 フランスでは漫画は、
「第九の芸術」(neuvieme art)として認知されています。
日本の漫画と比べても格段に高い取扱いを受けていると聞きますが、
やはり絵画や彫刻といった本格的な芸術にくらべると
まだまだ地位は低いということなのでしょう。
8 スターダム(Stardom)というのは、
もっぱらメビウスの画集を出版している出版社の名前です。
どうやらメビウスの家族経営的な会社のようです。
この点に関しては
「メビレンジャー」の管理人RYOWさんが検証してくれていますので、
そのサイトの掲示板の過去ログを参照してください。
● スターダム社公式サイト(事実上のメビウス公式サイト)
● 「メビレンジャー」
● 「メビレンジャー」内「掲示板」
9 イザベル・ジローはメビウスの妻の名前です。
くわしくは以下の記事を参照してください。
[
記者会見記事の下訳のまとめ1:「宮崎駿―メビウス」展]
10 ここでアングレーム(Angouleme)と言っているのは、
アングレーム市にあるフランス唯一の漫画専門の美術館、
国立ベデ映像センターのことを指しているのだと思います。
(「ベデ」はフランスの漫画の呼称です)
● 国立ベデ映像センター公式サイト
11 「カルティエ現代美術財団」は、
現代美術の美術館としてとても有名な美術館です。
宝石会社のカルティエのメセナ活動の一環として設立されました。
● カルティエ現代美術財団公式サイト
12 この『ハウルの動く城』の試写会の様子を、
若干ながら動画で確認することが出来ます。
詳しくは以下の記事を参照してください。
[
会場紹介動画発見:「宮崎駿ーメビウス」展]
上記の記事で紹介した動画の中に宮崎駿の姿が登場しますが、
これが試写会の模様なのでしょう。
2:10ある動画のなかの1:23ごろからです。
13 参考までに、『ハウルの動く城』のフランス版公式サイトを
ご紹介しておきましょう。
● 『ハウルの動く城』フランス版公式サイト
本展関連の他の記事については、
以下の記事を参照してください。
[
「宮崎駿―メビウス」展関連記事インデックス]