宮崎駿の『風の谷のナウシカ』にも影響を与えた、
フランスの漫画『Arzach』の和訳です。
[
『Arzach』(アルザック)解説]
[
メビウス&宮崎駿対談動画:文字おこしと全和訳1]
《ARZACH》 A UN COTE TRES NEGATIF.
LORSQUE J'AI COMMENCE A LE DESSINER,
J'ETAIS TOUT A FAIT DANS LA NORME DE LA SOCIETE QUE JE FREQUENTAIS,
CELLE DES CREATEURS DE BANDE DESSINEE,
OU ETRE NEGATIF ETAIT UN INDUBITABLE CRITERE DE QUALITE.
LA MORT EST TRES PRESENTE.
L'OISEAU EST UN BON EXEMPLE DE CES SYMBOLES MORBIDES :
IL RESSEMBLE A UN SAURIEN PREHISTORIQUE,
ESPECE ETEINTE, ET PARAIT FAIT DE BETON.
『アルザック』にはすごくネガティブな面もあると思う。
この作品を描きはじめた頃、
僕は当時関係していた会社にがんじがらめになっていたから、
その反動として、
バンド・デシネの作家としてはネガティブな状態にあった。
きっとそういうのが、作品の性質に影響しているんだろう。
“死”はとても身近な存在だ。
作品の至るところに死が不気味な影を落としている。
なかでもとくに、アルザックの乗っている鳥はその典型的な例だろう。
この鳥は太古の恐竜、すでに絶滅した種によく似ている。
外見はまるでコンクリートで出来ているみたいだ。
《付記》
原文中、「アルザック」を描きはじめた頃、
「会社に通っていた」(LA SOCIETE QUE JE FREQUENTAIS)とありますが、
「アルザック」の第一回目が雑誌「メタル・ユルラン」に掲載された
1975年当時は、
すでに「ブルーベリー」シリーズが開始されていて、
アルバムも何冊か刊行されていたし、
SFのイラストの仕事もしていたので、
メビウスがベデ作家と会社員を兼業していたということは
いくらなんでも無いでしょう。
この時期メビウスと関連のある会社というと、
1974年に創立された
出版社LES HUMANOIDES ASSOCIES社がまず思い浮かびます。
さらに、当時はどうやら
出版社DARGAUD社との仲が上手く行っていなかったようです。
([
バイオグラフィー訳案13])
LES HUMANOIDES ASSOCIES社の方は、
メビウスが中心となって新しいベデを創るために設立された会社なので、
原文で触れられている会社というのは、
DARGAUD社の方ではないかと思います。
DARGAUD社から出版されていた「ブルーベリー」シリーズは
ベデの伝統的な一ジャンルであるウエスタン・コミックで、
1975年にメビウスとDARGAUD社との仲が悪くなって一時期中断していた
という事情があるので、
おそらく、伝統と革新の板ばさみになって悩んでいたメビウスが、
いったん「ブルーベリー」シリーズを中断して、
「アルザック」とLES HUMANOIDES ASSOCIES社という冒険に打って出た、
という流れがあったのではないでしょうか。
「“死”はとても身近な存在だ」(LA MORT EST TRES PRESENTE)
と言っているのは、
メビウスが悩んでいたときに自殺も考えていた、ということなのでしょう。
もうひとつ、
原文の「OISEAU」の解釈が難しいところです。
「OISEAU」は「鳥」という意味の語なのですが、
文脈から判断すると、
明らかにアルザックの乗っているあの翼竜を指しているようです。
しかし、「OISEAU」には「翼竜」という意味はありません。
● 「TLFi」内「OISEAU」
オンラインの仏仏辞典としては最大規模のものです。
「翼竜」に相当するような語釈は掲載されていません。
アルザックの乗っている生き物は、
日本では一般に「翼竜」と名指されていますが、
どうやらメビウスは「OISEAU」(鳥)と呼んでいるようです。
アルバム(Nouvelle edition, ISBN:2731614080)の56ページにも、
「OISEAUX」(「OISEAU」の複数形。鳥たち)という語が出てきます。
《メモ》
少林カウボーイ。
なんつータイトルだ……。