[
前編]からの続きです。
フランスで運営されている
メビウスのメーリングリストへの参戦記です。
◆ メーリングリスト参戦記 -
フランス人おそるべしっ
◆ 丸尾末広、高山和雅、坂口尚
[desertb(デゼール・ベ、B砂漠)]
・"La face cachee de la Manga",
P.106, in "Silence, On reve" - Castermann, 1991,
ou Moebius fait une breve introduction
pour 2 auteurs juges...subversifs,
Suehiro Maruo & Takayama
(le fameux "Paranoia trip",
dont je cherche toujours une edition,
meme en condition modeste...)
・"Ikkyu", de Hisashi Sakaguchi, tome 1, edition glenat de 1996:
interview de Moebius par David Schmit (environ 3 pages),
ou il est question de Manga a Angouleme,
de Manga face a la BD franco-belge
et de Ikkyu en particulier...
・『お静かに、みなさん夢の中ですから』(Silence, On reve)
〔カステルマン社、1991年〕の106ページに載ってる
「『漫画』のもう一つの顔」って言う文章のなかで、
メビウスが「漫画に革命をおこすかもしれない」と言って
二人の作家を簡単に紹介しているよ。
丸尾末広とタカヤマだ。
(あの有名な『Paranoia trip』の作者だ。
状態が良くなくてもいいから一冊欲しくてずっと探してるんだけど、
なかなか無いんだよね……)
・『あっかんべェ一休』第1巻(坂口尚、グレナ社、1996年):
ダヴィッド・シュミットによるメビウスのインタビューが載ってる。
(約3ページ)
アングレーム国際ベデ・フェスティバルのときのもので、
フランスとベルギーのベデに関連のある「漫画」について
語っている。
で、その中でとくに『あっかんべェ一休』の名が挙げられてるんだ。
あんたも、すごいよ……。
丸尾末広(まるおすえひろ)は
エログロ趣味全開のエグイ漫画家として知られているようです。
● ウィキペディア日内「丸尾末広」
● 丸尾末広公式サイト「丸尾地獄」
*表紙ページからいきなりエグイです。こういうの大好きです。
● ファンサイト「丸尾マニア」
「タカヤマ」(Takayama)は「高山和雅」を指しているようです。
『Paranoia trip』とあるのは
『パラノイア・トラップ』(Paranoia trap)の誤記なのでしょう。
(最後から2文字目が違います)
SF漫画を中心に活動している作家のようです。
残念ながら日本での認知度は非常に低いように思いますが、
魅力的な作品を制作しているようです。
高山和雅に関するオンラインの解説としては、
次のものがおそらく唯一ではないかと思います。
● 「ごろねこ倶楽部」内「まんがの部屋>た行の作家」
上記ページの中央やや下のあたりで
高山和雅の単行本の表紙画像が紹介されていますが、
たしかに、いかにもフランスで受けそうな作風のようです。
*「高山和雅」に関しては
当サイトの訪問者マルケスさんに教えていただきました。
ありがとうございました。
坂口尚(さかぐちひさし)は、
日本漫画家協会賞を受賞した『あっかんべェ一休』で
とくに良く知られている漫画家で、
同書の翻訳書はフランスでも販売されています。
● ウィキペディア日内「坂口尚」
● ファンサイト「坂口尚氏の小部屋」
この「desertb」という人は、
「これらのインタビューの画像を日本まで郵送してあげようか?」
なんてことまで言ってくれたのですが、
さすがにそれは悪いので、丁重にお断りしておきました。
いい人です。
なお、彼のハンドルネームは
メビウスの画集『40 days dans le desert B』(B砂漠での40日)から
採ってあるだと思います。
にしても、メビウスもフランスの「漫画」ファンも、
いったい何者なんだ……。
僕はどれも読んだことないんですが……。
◆ アニメ映画『ニモ』
[Pedro Gil(ペドロ・ジル)]
Moebius etait une autre periode au Japon
pour faire le dessin anime 《Nemo》,[後略]
メビウスは、映画の『ニモ』のデザインをするために、
日本に行ったこともあるんだろ?
当然『ニモ』のこともチェック済みのようです。
日本では通常『リトル・ニモ』と呼ばれているアニメ映画に、
メビウスがデザイナーとして参加しています。
[
『リトル・ニモの野望』解説]
◆ メビウスのインタビューと歯痛
さらに、僕が
日本の雑誌に掲載されたメビウスのインタビューを紹介してみたところ、
[
「デザインの現場」所載インタビュー]
なかなか興味深い補足情報を教えてもらえました。
[E.T.(フランス語では“ウ・テ”と発音します)]
Ces photos ont bien ete realisees au milieu des annees 90
dans un studio de dessin anime proche de l'ORTF
(la television francaise) pour le magazine japonais.
Moebius travaillait sur un pilote de DA
et il avait tres mal aux dents.
Voila pourquoi son visage est severe.
[インタビューに載っているメビウスの]この写真は、
90年代のなかばに日本の雑誌のために撮られたものに間違いないよ。
撮影場所は、「ORTF」って言うフランスのテレビ局の近くにある
アニメスタジオだ。
メビウスはこの時雑誌「ピロット」誌のために仕事をしていて、
虫歯が酷かったらしい。
メビウスが厳しい顔つきをしてるのはそのせいなんだよ。
メビウスが厳しい顔つきで映っているインタビューの写真というのは、
こんな感じ(クリックで別窓で表示、237Kb)です。
そうかぁ~、このときメビウスは虫歯を、ってオイ。
あんたは何でそんなことを知ってんのかと。>E.T.
な、何者なんだ、一体……。
「ピロット」誌というのはフランスの有名な漫画雑誌で、
原文の「DA」というのはこの雑誌の出版社
「Dargaud」(ダルゴー)社のことではないかと思います。
◆ フランスでのメビウスの認知度と若手の台頭
最後に、これもとても大切なことだと思うので、
ぜひとも紹介したい投稿があります。
[僕]
日本人はほとんどメビウスのことを知らないんだ。
僕は、これはとても不幸なことだと思うんだ。
[Li-An(リー・アン)]
[前略]je peux t'assurer
que beaucoup de jeunes lecteurs de BD fancophones
ne connaissent que l'Incal
(et je rencontre de plus en plus de jeunes auteurs BD
qui ignorent tout du travail de Moebius sauf l'Incal).
Ce qui n'etait pas du tout le cas dans les annees 80
ou Moebius etait une reference importante
pour les jeunes auteurs.
うーん、でもね、
フランスのベデの読者のなかでも、
若い人の中には「ランカル」[メビウスの代表作です]を
知らない人がたくさん居たりするものなんだよ。
(それどころか、ベデの若手作家のなかにも、
「ランカル」くらいしかメビウスの作品を知らない、
って人もだんだんと増えて来ているんだ)
たしかに80年代には、
メビウスは若手作家にとってもっとも重要な作家だった。
でもね、それが全てじゃないってことなのさ。
手塚治虫も
一時期劇画におされてスランプに陥っていたと聞きますし、
メビウスも宜(むべ)なるかな、といった所でしょうか。
たしかに最近は、
日本の「漫画」の影響を受けた新しいスタイルのベデが
ぞくぞくと制作・発表されていると聞きます。
このLi-Anという人物は
このメーリングリストのなかでも活発に発言している人で、
(どうやらプロのイラストレーターか何かのようです)
その意味では筋金入りのメビウス・ファンなのですが、
だからといって無闇にメビウスを崇(あが)め奉っているわけではない、
という点は見習いたいものです。
● 「LE SITE DE LI-AN」
彼のサイトです。ランプをもった小人の絵をクリックすると、
彼のブログに移ります。
「illustrations--BD--actualite」
(イラストとベデのニュース)とあります。
◆ ヨーロッパ人の「漫画」の読み方
ということで、
メーリングリストの参戦記はひとまずここまでです。
フランスの「漫画」ファンは
確実に僕なんかよりも「漫画」について詳しいようです。
ただ、
フランスでの「漫画」の受容のされ方には
どうも一つの傾向があるように思います。
たしかに大友克洋や宮崎駿を筆頭として
日本の「漫画」はヨーロッパでも高く評価されているようなんですが、
その一方で、フランスの「漫画」のファンサイト等を覗いてみると、
藤子不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫といった名前は
不思議なほど見かけません。
その一方で、失礼ながら
日本では一部に熱狂的なファンを持ちながらも
むしろいまひとつメジャーではない谷口ジローが、
最高級の評価を得ていたりします。
どうも、いわゆる
“芸術志向”の「漫画」が、
ヨーロッパでは高く評価されているようです。
バンド・デシネがもともとそういう性格のものなので、
そういった作品を好む土壌が出来ているのでしょう。
(売上だけを見るなら、
たとえば「少年ジャンプ」に連載されているような
「漫画」らしい「漫画」もしっかり売れているようです)
フランスではまさしく「漫画の神様」として
日本での手塚治虫的な位置にいるメビウスが
日本ではほとんど知られていない、
ということと対照的だと思います。
日本の「漫画」が世界的に売れているからといって、
世界の漫画ファン全員が
日本の漫画ファンと同じ嗜好を持っているわけではない、
ということは押さえておくべきだと思います。
この差がとても大切だと思うのです。
ひとつ注意しておかなければならないのは、
フランスと日本の間にあるこの“差”は、
決して優劣の差ではなくて、
単に嗜好の差だという点です。
谷口ジローはたしかにフランスで最高級の評価を得ていますが、
「だから谷口ジロー(もしくは“海外で評価されている作家”)は
すごいんだ!」
なんていう受取られ方がされるなら、
僕は、それはとんでもない誤解だと思うのです。
“漫画に関する視野の広さ”に限って言うなら、
日本人よりもフランス人のほうが優れているとは思います。
ただ、だからと言って、
フランス人のほうが漫画の真価を理解している、
ということには成らないと思うのです。
フランス人は『ドラえもん』を知りません。
(わざわざフランス人の威なんか借りなくても、
谷口ジローは充分すごいです)
フランスと日本の間にあるこの“差”を利用して、
自分のなかにある「漫画」に関する固定観念を壊すこと。
この“差”を、「漫画」の新しい可能性を拓くために利用すること。
そういう事こそが大切なんだと思います。
◆ 最後に A la fin, un petit mot
Merci beaucoup pour votre bon accueil,
tout le monde dans la mailing liste.
Regrettablement,
Moebius est encore presque inconnu au Japon.
La plus grande partie de lecture japonaise de manga
ne connaissent pas ni l'admirable monde de la bande dessinee,
ni celui du comics.
Elles essaient de lire les seules mangas.
En plus,
elles parlent ceci
sans lire Moebius ou sans lire «Sandman» (comics) :
«Le manga est la plus grande dans le monde entire !
Les dessins des autres pays sont bien inferieurs a le manga.»
Je pense que
Il est tres regrettable, tres malheureux et tres honteux.
La derniere fois,
je me suis bien etonne
quand je recherchais sur la Wikipedia francaise
et sur le site officiel de
Festival International de la Bande Dessinee.
Il y a non seulement un article sur le manga,
mais aussi celui sur le manhwa (le dessin coreen) !
(les lecteurs japonais de manga connaisent peu le manhwa...)
Quand j'ai fait la conversation avec vous,
je me suis bien etonne que vous etiez tres verse dans le manga.
Merci beaucoup d'aimer les mangas :-)
Nous autres japonais sommes tres honores.
Et j'ai un profond respect a votre esprit ouvert sur les dessins.
Je crois que les japonais doivent avoir cet esprit ouvert.
J'espere que les japonais parleront un jour ceci :
«Le manga est magnifique !
Mais, la bande dessinee aussi, les comics aussi, le manhwa aussi.
Tous sont magnifiques !
Dans le monde,
il y a beaucoup de dessins magnifiques
que nous ne connaissons pas encore !»
Je crois que ce jour viendra certainment.
Et j'espere que ce mon site est utile a cela.
Merci beaucoup pour votre bon accueil,
tout le monde dans la mailing liste.
Et je me recommande a vous pour l'avenir.
メーリングリストのみんな、僕を歓迎してくれてありがとう。
残念ながら、日本ではメビウスはまだほとんど知られていない。
日本の漫画読者の大半は、
バンド・デシネのすばらしい世界も、アメコミも知らないんだ。
彼らは日本の「漫画」しか読もうとしない。
しかも彼らは、
メビウスも『サンドマン』[アメコミの有名な作品です]も読まずに、
こんなことを言っているんだ。
「日本の『漫画』は世界一すばらしい!
他国の漫画は数段おとる」
と。
僕は、これは、すごく残念で、すごく不幸で、
すごく恥ずかしいことだと思っている。
この前、フランスのウィキペディアと
アングレーム国際ベデ・フェスティバルの公式サイトを見ていて、
すごくびっくりしたことがある。
そこには、日本の「漫画」だけじゃなくて、
韓国のマンハに関する記述まであったんだ。
(日本の漫画読者はマンハについてもほとんど知らない)
あなた達と話してみて、
フランス人があまりに「漫画」について詳しいのですごくびっくりした。
「漫画」を好きになってくれてありがとう。
とても光栄に思います。
そして僕は、フランス人の漫画に関する広い視野に、
深い尊敬の念を抱いています。
僕は、日本人も、この広い視野を持てれば良いと思っています。
いつの日か、日本人がこう言う時が来れば良いと思っています。
「日本の『漫画』はすばらしい!
でも、バンド・デシネだって、アメコミだって、
マンハだってすばらしいじゃないか!
世界には、まだまだ
私たちの知らないすばらしい漫画がたくさんあるぞ!」
ってね。
その日が来ることを信じている。
そして、僕は、僕のこのサイトが、
そのための役に立てれば良いと思っている。
メーリングリストのみんな、歓迎してくれてありがとう。
そして、これからもよろしく。
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