前回の記事の補注です。
◆『不思議の国のアリス』本文
● ウィキペディア日内「不思議の国のアリス」
『不思議の国のアリス』の本文は
以下のページで参照することが出来ます。
《英語原典》
● 「eBooks@Adelaide」内「Carroll, Lewis, Alice’s Adventures in Wonderland」
● 同上内第六章
《邦訳版》
● 「プロジェクト杉田玄白」内「正式参加テキスト>キャロル、ルイス『不思議の国のアリス』」
● 同上内第六章
残念ながら同作の仏訳版については、
ウェブ上で公開されている例は見つけられませんでした。
● ウィキペディア仏内「Alice au pays des merveilles」
「Alice au pays des merveilles」というのは
『不思議の国のアリス』の仏題です。
『LA DEVIATION』(まわり道)の[3(13)>1]のジャンの台詞は、
『不思議の国のアリス』の第六章のチェシャ猫(笑い猫)の
エピソードを巨人に語って聴かせている、
という趣向になっているようですが、
原典の忠実な引用というわけではなく、
木の上に座っているチェシャ猫をアリスがはじめて見る場面と、
チェシャ猫が笑い顔だけ残して消えてゆく場面、
(どちらも笑い猫のエピソードとして有名な場面です)
を要約して、さらに改変を加えてあるもののようです。
◆ 木の上のチェシャ猫に出会う場面
● 英語原典第六章
when she was a little startled
by seeing the Cheshire Cat sitting
on a bough of a tree a few yards off.
● 邦訳版第六章
何メートルか先の木の大えだに、
あのチェシャねこがすわっていたので、
アリスはちょっとぎょっとしました。
『LA DEVIATION』(まわり道)
...ALICE SE RETOURNA
ET FUT FORT EFFRAYEE :
UN GROS CHAT,
PERCHE SUR LA MAITRESSE BRANCHE DU BANANIER,
……アリスは振り向いて、
すごくびっくりしました。
太った猫が、
バナナの木の大枝のうえに座っていたのです。
原典ではチェシャ猫の座っている木は
単に「a tree」(木)とされているだけですが、
『まわり道』では「BANANIER」(バナナの木)とされています。
◆ バナナの木の枝?
さて、かなり細かいことなんですが
拘(こだわ)っておきたいことがあります。
「LA MAITRESSE BRANCHE DU BANANIER」は
「バナナの木の一番太い枝」という意味になるのですが、
そもそもバナナの木に枝なんてあるんでしょうか。
バナナの木の写真は以下のページで見ることが出来ます。
● ウィキペディア日内「バナナ」
● 沖縄県立図書館公式サイト内「沖縄素材集>農業>バナナ01」
● 同上内「バナナ02」
● 同上内「農業一覧」
● 「ブルーミングスケープ」内「ご購入のお客様のお声 バナナ」
*鉢植えの小さな苗の写真ですが、
バナナの木の構造を端的に見て取れる例だと思います。
バナナの木というのは、一本の幹の頂上から葉が放射状に生えている、
という構造になっているようです。
幹から生えているのはあくまで“葉”(feuille)なんであって、
“枝”(Branche)ではないんじゃないでしょうか。
この葉を枝と見做すとしても、
これらの枝はすべて同じような葉ばかりで、
その中から「一番太い枝」(la maitresse branche)
を認識するというのも、無理があるように思います。
僕が思いつく解決策は以下の三つです。
・「一番太い枝」は“幹”(fut)のことを指している。
・「丸い四角」や「熱い氷」といった、
いわゆる形容矛盾的な言葉あそび。
・単なるミス、もしくは僕の考え過ぎ。
我ながら細かすぎるとは思うのですが、
いまは一番目の解釈を採っておきたいと思います。
バナナの木の幹の上に乗っているということは、
結局バナナの木の上に乗っているということなんでしょう。
...ALICE SE RETOURNA
ET FUT FORT EFFRAYEE :
UN GROS CHAT,
PERCHE SUR LA MAITRESSE BRANCHE DU BANANIER,
LA FIXAIT D'UN REGARD JAUNATRE!
"IL DOIT ETRE TRUQUE LUI AUSSI"
SONGEA ALICE
……振り向いたアリスはすごくびっくりしました。
バナナの木の上に太った猫が一匹、
ニタニタ笑いながらじっとこちらを見ているのです。
「あの猫も幻かなにかに違いないわ」
アリスはそう思いました。
◆ 「CHAQUN SON TRUC」と「REGARD JAUNATRE」
各種中型仏和辞典を調べてみたんですが、
いずれも語釈は掲載されていませんでした。
《付記》
うー、『まわり道』の文章って
『ランカル』よりも格段に難しいっす……。