メビウス関連の事項についての簡単な解説です。
(順次拡張予定)
◆ ペンネーム
メビウスは二つのペンネームと二つの作風を使い分けている作家です。
メビウスの本名はジャン・ジロー(Jean Giraud)と言います。
作家活動を始めたばかりの頃(1960年代)は
この本名をそのままペンネームとして、
ジャン・ジロー名義のもとに
短編漫画(ストリップ)やウェスタン・コミック(西部劇漫画)を
制作していました。
どちらもフランスの漫画界では伝統的なジャンルです。
やがて「メビウス」(Moebius)名義のもとに
SFのイラストも手がけるようになるのですが、
「メビウス」がジャン・ジローのもうひとつのペンネームであることは
一般には伏せられていました。
ジャン・ジロー名義の作風とメビウス名義の作風が
極端に異なるものであっため、
この秘密には誰も気付かなかったと言います。
1970年代に入ると
「メビウス」のペンネームが一躍脚光を浴びるようになります。
『アルザック』という作品を皮切りに、
それまでにはなかった新しいベデを目指して
「メビウス」名義で続々と新作が発表されるようになったからです。
以後、本名ジャン・ジローのこの作家は、
「ジャン・ジロー」名義による伝統的な作品、
「メビウス」名義による革新的な作品、
という二つのペンネームと二つの作風を使い分ける作家として、
フランス漫画界を牽引して行くことになります。
(「メビウス」と「ジャン・ジロー」が同一人物であることが
始めて明かされたのは、
1973年の『まわり道』〔LA DEVIATION〕という作品でした)
「ジャン・ジロー」というペンネームと
「メビウス」というペンネームが
一つの作品のなかで併記される例は、
僕の知るかぎりではありません。
そのため、
この“二つのペンネームを使い分ける一人の作家”を指し示すためには、
「ジャン・ジロー・メビウス」という通称が使われる場合が
日本では多いように思います。
フランスでは
「Jean Giraud alias Moebius」(ジャン・ジロー、別名メビウス)
が一般的です。
また、
映画のデザイナーとしてエンドロールにクレジットされる場合などでは、
「Jean "Moebius" Giraud」(ジャン・“メビウス”・ジロー)
が多いようです。
(欧米では
姓と名のあいだにニックネームを挟みこんで表記することがあるので、
おそらくその習慣に則っているのでしょう)
日本ではおもに1980年代に
「メビウス」名義のSF作品が中心に紹介されたため、
どちらかというと「メビウス」のペンネームのほうが
一般的のように思います。
当サイトでも、通常は「メビウス」と表記し、
必要に応じて「ジャン・ジロー・メビウス」と表記するようにしています。
参考までに付言しておきますが、
“二つの作風と二つのペンネームを使い分ける”というやり方は、
フランスの漫画界でも特殊な例です。
(僕が知るかぎりでは唯一の例です。
少なくともここまで有名な例は他にはないはずです)
ちょうど反対の例になりますが、
“二人の作家が一つのペンネームを共有している”
藤子不二雄のような例が、
日本では唯一無二の存在であることに似ているのではないでしょうか。
◆ 邦訳版はないの?
ありません。
以前、一冊だけ邦訳版が発売されたことがあるのですが、
今では絶版になってしまっていて、
入手はとても困難です。
唯一の邦訳版の名前は
『謎の生命体アンカル』と言います。
代表作「ランカル」シリーズの第一巻目、
『L'INCAL TOME 1 / L'INCAL NOIR』の邦訳版です。
(直訳すると
『ランカル 第一巻 闇のアンカル』という意味になります)
● [
「L'Incal」(ランカル)シリーズ解説]
くわしくは以下のページで復刊運動が行われているので、
参照してみてください。
● 「復刊ドットコム」内「No.4097, 謎の生命体アンカル(原題:L’INCAL)」
幸い、
同書の原典の画像はウェブ上ですべて観ることが出来るようになっています。
(ただし、かぎりなく違法くさいので注意してください)
また、本当に拙いながら私訳をつくってありますので、
よろしければご参照ください。
● [
『L'Incal 1』(ランカル 1)和訳インデックス]
画像紹介ページへもこちらから。