
「それが、アニメの真の力なんだ」と
彼は言った
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『THRU THE MOEBIUS STRIP』を
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『THRU THE MOEBIUS STRIP』の動画トレイラーを確認せよで紹介した、
4ページにわたるメビウスのインタビュー記事の和訳です。
さすがに全訳は無理なので、
僕が個人的に気になったところを抜き出して訳してあります。
"There were one and a half years between
the storyboard and the momoent when
I first saw the story on the screen,
so there were distortions and
I first thought it was a disaster," Moebius recalled.
"But that feeling has diminished now.
It's surrealistic to see it now
because we are seeing a movie form another time.
It's not exploitation. It has dignity.
It's not perfect, but it's timeless."
「ストーリーボードを完成させてから
それを実際にスクリーンに映し出してみるまでに、
じつに一年半もの月日がかかっているんだ。
だから当然、
ぼくが最初に意図していたものとは違ってしまっている部分が
色々と出て来ていた。
じつは最初のうちは、
『しまった、これは失敗作だ』って思っていたんだよ。」
――メビウスは当時のことを思い出しながら語ってくれた。
「でも、今はそういう気持ちは吹き飛んでしまったね。
今あらためてこの作品を観てみると、
なんと言うか、とても不思議な気分になるんだ。
過去の自分が創り出した作品を現在の自分が鑑賞しているわけだから。
この作品は決して僕一人の手柄によるものなんかじゃないと思う。
この作品は、それ自体がひとつの生き物なんだ。
たしかに『完璧な出来栄え』と言ってしまうと嘘になるだろう。
でも、『良い』作品であることは確かだよ。」
"Several years ago,
I was going through Asia,
looking for facilities that Sony could use for
offshore 3D animation," Foster said.
"That was when I met Raymond Neoh,
who was working with Ainie Wong
to set up the feature project for Moebius in Hong Kong.
This is a project that Arnie and Moebius have wanted to do
since they met 18 years ago working on Tron."
「何年か前、
ソニーで3Dアニメを海外発注しようという計画があって、
どこかいい制作会社はないかとアジアを周っていた時のことでした。」
――プロデューサーのフォスター氏は言う。
「その時に、レイモンド・ネオと出会ったのです。
彼はちょうど香港にいて、
アーニー・ウォンといっしょに、
メビウスために大作の準備に取り掛かっているところでした。
そして今回のこの作品こそは、
メビウスとアーニーがあのとき『トロン』で出合って以来、
18年間も温めつづけてきた企画に他ならないんです。」
Moebius had his own associations with Sony,
dating back to an early aborted attempt to
film his epic The Airtight Garage and
a return engagement designing
Sony's San Francisco Metreon entertainment complex.
Through this common ground,
Foster found himself privy to the embryonic realization
of what had been a lifelong dream for Moebius :
the creation of his own feature film.
じつは、メビウスとソニーが組むのは今回が初めてではない。
話はメビウス作の叙事詩『隔絶されたガレージ(The Airtight Garage)』
[訳注:仏語による原題は『Le Garage Hermetique』]
を映画化しようとした時にさかのぼる。
結局その映画は企画段階で頓挫してしまったのだが、
ソニーはそのお返しとして、
あたらしくサンフランシスコにオープンする総合エンターテイメント施設
「メトレオン(Metreon)」のデザインをメビウスに依頼したのだ。
メビウスとソニーとは強いつながりを持っている、
そのことに気が付いたとき、
フォスター氏は、自身の生涯をかけた夢、
「メビウスのために映画を創る」
という夢を、
ついに実行に移すときが来たと考えている自分自身に、気が付いたのだ。
"In the beginning I had one idea
about an original kind of spaceship
and it gave me some ideas for a story," Moebius said.
"After I met with Raymond,
he became the central person in charge of the money
on the project and
finding most of the people to work on the movie in France.
We started talking to Frank
and spent 10 days writing the story together,
meeting every day with Frank taking notes."
「まず一番さいしょに、
独特のかたちをした宇宙船のイメージがあたまに浮んだんだ。
そしてそれを起点として、
いくつかのストーリーのアイデアを思い付いた。」
――メビウスは語る。
「レイモンドは、最初に出会って以来、
ずっとこの企画の資金調達の中心人物として働いてくれている。
フランスでの映画制作についても、
スタッフのほとんどはレイモンドが集めて来てくれた人達なんだ。
レイモンドと僕はまずフランクのところに話を持って行った。
そして十日ばかりかけて、一緒にストーリーを練り上げていったんだ。
毎日フランクに会ってノートを取ってもらっていた。」
*原文では一番最初に「"(クオーテーションマーク)」が
抜けていますが、これはタイプミスなのでしょう。
"Jean intuitively explained the story
in much in the same way as a parent might tell a child a story,
to entertain them," Foster said.
"My job was to listen and try to help him
piece together the various elements.
It was magical the way it came together.
I drafted that into a rough nine-page treatment,
then presented this to our screenwriter,
Jim Cox (FernGully, The Rescuers Down Under),
who used that as the basis for his first draft.
Last spring that draft was presented to Jean,
who came to L.A. for a week,
and he worked with Jim and me, making adjustments.
When Jim completed that second draft,
we started three months of pre-production."
「メビウスは、
まるで親が子供におとぎ話を語って聞かせるように、
即興でストーリーを語って行きました。」
――フランク氏はそう語る。
「私の仕事は、その話を聞いて、
ストーリーのかけらをひろい集めて、
それらを一つにまとめ上げる手助けをしてやることでした。
そうやってストーリーが出来上がってゆくさまは、
まるで何かの魔法を見ているようでしたよ。
私はさっそくそれを9ページの企画書にまとめ上げて、
シナリオ・ライターのジム・コックスに見せに行きました
(代表作は『グリーンガリー/永遠の熱帯雨林』、
『ビアンカの大冒険~ゴールデン・イーグルを救え!~』など)。
ジムはそれを元にシナリオの初稿を仕上げました。
去年の春[訳注:1999年]、
メビウスが一週間ロサンジェルスに滞在する機会が出来たので、
この初稿に目を通してもらうことが出来ました。
それから、メビウスとジムと私の三人で
ストーリーの細部をいろいろと詰めて行きました。
ジムがちょうどシナリオの第二稿を仕上げるころ、
私達は三ヶ月間のプリ・プロダクション(制作準備)段階に
移ることが出来るようになっていました。」
"It was interesting what Jim did," Moebius said.
"He connected my story to a fairy tale,
so it took on a classic resonance."
「ジムの仕事はとても興味深いものだった。」
――メビウスは語る。
「彼は僕のストーリーにおとぎ話の要素を付け加えてくれたんだ。
おかげでそのストーリーは、一流の古典作品のような
威厳に満ちた生命力をそなえることになったんだ。」
まるで、映画とシンクロ
しているようだった
"Jean has told me many times
that this is the first time
he has been involved with a film project
where he really feels that his heart and soul is
in not just the images, but in the story,
the characters and the emotion of the film.
He has been in tune with what emotion a sequence conveys,
how the characters react to each other
and what the back-story is.
He came up with lots of detail on
why characters are the way ther are,
why the technology works a certain way.
We may reveal aspects of this in our upcoming Web site
that audience may or may not glean from the actual movie."
「映画の製作に関わるようになって以来、
ヴィジュアルではなくそのストーリーに、
登場人物に、そしてその映画がもつ感情のようなものに、
ここまで深く心をうばわれた経験はいまだ嘗てなかった、と、
メビウスはたびたび私に語ってくれました。
彼はまるで、映画の伝える感情のようなものと、
登場人物たちがもつ意志と、
そして、表立っては語られることのない物語のもっと深い部分とまで、
完全にシンクロしているかのようでした。
彼は、登場人物の人となりや、
劇中に出てくるテクノロジーについて、
ものすごく詳細な設定を用意してくれているんです。
もうすぐ映画の公式サイトを開設する予定なんですが、
そこで、こういう設定について
いろいろとお伝えすることができると思います。
映画を観れば分かることだけではなくて、
映画には出てこない部分までね。」
In his three months in Los Angeles, Moebius estimated,
he generated approximately 300 designs for the film.
He occasionally worked in Photoshop,
but mostly worked by hand,
sketching rapidly in pencil,
designing characters, vehicles, props and settings,
as well as roughing out pages of
postage-stamp-sized storyboard frames.
Production illustrator Sylvain Despretz then worked
closely at Moebius' side,
leading a team of artists
who transformed the original drawings
into finished renderings for
approval and adaptation into digital models.
"I have known Sylvain for more than 15 years," Moebius said,
"since the beginning of his career.
We became friends and he has grown better and better
--better than I--
so it has been a great surprise to have him working on this film."
メビウスはロサンジェルスでの三ヶ月間の制作期間中、
ざっと数えてみただけでも300枚、
映画のために原画を描いたという。
ときどきはフォトショップも使用したが、
基本的にはすべて手描きで、
登場人物や、メカや、ちょっとした小道具や背景について、
次々とデザインをこなしていった。
さらにそれに加えて、
だいたい切手くらいの大きさのフレームに分けて、
おおもとになるようなストーリーボードまで仕上げたという。
その後、制作会社のシルベイン・デプレが制作に参加し、
メビウスと机を並べるかたちで作業を開始した。
彼は自分の制作チームを率いて、
原画をもとに、
デジタル処理でCGの3Dモデルを作成するための
レンダリング(画像データへの変換)作業を行った。
「シルベインとは、もうかれこれ15年以上の付きあいになると思う。」
――メビウスは言う。
「彼がこの仕事を始めたころからの仲なんだ。
でも、見る見るうちに上達してしまって、
今じゃ僕よりも上手いくらいだね。
だから、この映画についての彼の仕事ぶりには、
本当に驚かされてばかりだったよ。」
"The characters must be alive
and we need to control the speed of their delivery
and the silences.
but I'm not familiar enough with American stardom
to choose somebody," Moebius said.
"I will offer my suggestions,
but that is mainly something Frank will do."
(声優のキャスティングはこれからの予定、という話題につづいて)
「登場人物ってのは、まさに生きていなくちゃならないものなんだ。
それに、登場人物のしゃべる速さや間のとり方なんかについても、
僕たちはちゃんと把握しておく必要がある。
でも、アメリカの声優のことはよく分からないから、
誰を選んでよいのか僕には分からないんだ。」
――メビウスは言う。
「こうしてほしい、ってことを伝えることはあると思う。
でも、実際にそれをやるのはフランクの仕事だろうね。」
"All of the CG movies that have been made so for
have been made with almost an army," Moebius said.
"It has become crazy.
With every sequel they increase their staff,
they have a lot of money
and the production becomes a kind monster.
We are absolutely not in that leaque.
We are human.
We are a few people, with not great deal of money,
so we are trying to push in every way
we can with our imasinations."
「いままでのCG映画の製作現場ってのは、
まるで軍隊のようだった。」
――メビウスはこう語る。
「狂っているとしか思えない。
制作が追い込みに入ると、
まずスタッフが増員される。
そしてたくさんのお金だ。
その結果、制作会社は、まるで一匹のモンスターのようになってしまうんだ。
僕たちは決してそんなことはしない。
僕たちはあくまで人間なんだ。
スタッフをむやみに増やしたりはしないし、巨額の制作費用も要らない。
大切なのはイマジネーションさ。
僕たちはそれを武器に、一歩一歩すすんで行くつもりさ。」
Both Moebius and Foster cited Japanese anime master
Hayao Miyazaki and Katsuhiro Otomo
as having perfected this balance.
"I admire what Otomo did for 'Memories'(1996),
for example," Moebius said.
"It was exactly like something I would like to do :
Realistic, with simple lines,
but with a lot of attention to the precision of
gesture and building every character.
My ideal wish would be to do a movie,
either in traditional animation or in computer animation,
which would be more intimate
-- no monsters, no object-dodging, no special effects --
just focused on the people in normal life.
Miyazaki did that in his animation.
We have big monsters in our movie, and I like that,
but the best part for me is the kind of scene where
the family might arrive in the country,
they start to run around their new house and
the little girls go to play.
It's simple, nothing special, it could be done in live-action,
but the animation brings something more.
I think one day if we had a real movie in computer animation
with nothing strange, nothing fantastic,
it would be an incredible experience,
because then we could really see the power of that animation."
メビウスとフランクの二人ともが口をそろえて、
日本のアニメ・マスター、宮崎駿と大友克洋は、
このバランスを見事に取って見せていると言う。
「たとえば大友克洋の『MEMORIES』(1996)。
あの作品で大友がやって見せたことには、本当に敬服の念を禁じえないね。」
――メビウスは言う。
「まさに、僕がやろうとしていた事そのものだった。
描線はあくまでシンプルでありながら、リアリティーは失わない。
すべての登場人物が、
その感情の襞(ひだ)のひとつひとつにまで細心の注意がはらわれて、
じつに緻密に造り込まれているんだ。
ああいう映画をものにしたい。
コンピュータを使うか否かなんてのはどうだっていいことさ。
モンスターなんて出てくる必要はない。
こけおどかしも、特殊効果も必要なんてないんだ。
僕たちが普段生きている何でもないこの人生、
それをちゃんと描きさえすれば、
観客のこころに響く、本物の映画を造ることができるんだ。
宮崎駿はまさにそれをやってのけている。
たしかに、
僕たちが今つくっているこの映画には巨大なモンスターが出てくるし、
僕はそれが好きでもある。
でもね、僕がこの映画でもっとも好きなシーンは、
たとえば家族がやっと故郷に帰ってきて、
新しい家のまわりを走りまわって、
女の子がその横で遊びはじめる、
そういうシーンなんだ。
かざらない、何も特別なことなんてない、
実写でやれば充分、ってシーンさ。
でもね、アニメーションが、
それを何か特別なものに仕立て上げてしまうんだ。
いつの日か、そういう、
変に気どらない、現実離れしたところもない、
本物の映画を、
コンピュータ・グラフィックスで創ることのできる時が
来るのかもしれないね。
そうなれば本当にすばらしい。
それこそが、アニメーションのもつ真の力なんだから。
*大友克洋の『MEMORIES』については、
発表年はどうも1995年であるようです。
● 「制作年」を1995年とする「BANDAICHANNEL」のページ
● 「1995年劇場公開作品。」とする「アマゾン」の解説
● 「日本劇場公開:1995年12月23日」とする
「GENERAL WORKS」内
「SF MOVIE DATABANK」の
「MEMORIES」のページ
● 「1996年12月公開」とする「WEBアニメスタイル」の解説
● 「1996」とする「YAHOO! MOVIES」の解説
● 「1996」とする「TheFreeDictionary.com」の
「Katsuhiro Otomo」のページ
海外での発表年が1996年であるのかも知れませんが、
決定的なソースを発見することは出来ませんでした。
1995年12月23日に公開されたため、
実質的には1996年に公開されたものとして、
誤解されているのかもしれません。
「live-action」の訳語「実写」については、
当ブログ訪問者のtsuyoさんから教えていただき、
管理人の責任において訂正を入れてあります。
くわしくは
この記事のコメント欄をご参照ください。
本当にありがとうございました。
じつは、メビウスの動画ネタというのが、
他にもありまして、明日はそれを紹介することができればと思っています。
でも、さすがにこういう更新ペースを続けると
確実に燃えつきてしまいそうなので、
怒涛の動画ネタ攻勢は明日でひとまずお休みです。
ほったらかしになりまくっている企画を、はやく何とかせねば……。