《基本情報》
書名:ARZACH
絵:Moebius
話:Moebius
出版社:
LES HUMANOIDES ASSOCIES
ISBN:2731614080[
BD GEST']
初版発行年:1976年
公式解説ページ:
LES HUMANOIDES ASSOCIES社サイト内解説ページ
《解説と画像の紹介》
『フランスコミック・アート展 図録』から『アルザック』の解説を
引いておきます。
1974年、メビウスらによって共同創刊された
『メタル・ユルラン』誌において、
創刊号より連載された[訳注↓]。
翼竜のような生物を乗りこなし、
風変わりな帽子をかぶった男アルザックが、
幻想的な世界で活躍する物語。
ある時は機転を利かせて怪物を退治し、
またある時は女性の着替えを覗き見するなど、
アイデアとユーモアが散りばめられている。
セリフや擬音を全く使用せず、
音の世界を読者の想像に任せるという手法が、
BD世界に革命をもたらした。
台詞に頼ることなく展開される描写は、
躍動感を視覚的に強める効果をも生み出している。
コマの割り方でさえ一様ではなく、デザイン的に処理されており、
メビウスならではのグラフィックが堪能できる
完成度の高い作品である。
[訳注:「メタル・ユルラン」誌の創刊年は1975年です。]
奥田奈々美
(細萱敦、柴田勢津子編『フランスコミック・アート展 図録』
2003年 滋賀県立近代美術館)より
◆ LES HUMANOIDES ASSOCIES社公式サイトの『Arzach』解説文
● LES HUMANOIDES ASSOCIES社公式サイト内『Arzach』解説文
Un des chefs-d'oeuvre de Moebius au plus fort de son art,
dans les annees 70.
Son premier album sous le label des Humanoides Associes.
L'edition definitive d'un des livres emblematiques
d'une periode cle de la bande dessinee europeenne.
70年代に発表された、
メビウスの力量が遺憾なく発揮された傑作のうちのひとつ。
ユマノイド・アソシエ社からは
本作がはじめての作品となっている。
ヨーロッパのバンド・デシネ史上、
もっとも重要な一時代を象徴する一作を、
決定版編集でお送りする。
◆ 『アルザック』一番最初のエピソードはどれか?
『アルザック』(Arzach)は、
1975年にメビウスが中心となって創刊されたベデ専門雑誌
「メタル・ユルラン」(Metal Hurlant)の創刊号に、
はじめて発表されました。
「メタル・ユルラン」と『アルザック』が
バンド・デシネの歴史上どのような意義を持っているかについては、
以下のサイトでとても分かりやすく解説されています。
● 「PLANET COMICS.JP」内「メタル・ユルラン」解説ページ
かいつまんで言うなら、
子供向けの漫画しかなかったベデ界に、
大人向けの芸術性を重視した作品が登場するきっかけになった、
ということになるでしょうか。
ストリップからストーリー漫画への移行、
という点も強調しておいて良いでしょう。
[
基本用語解説]
「メタル・ユルラン」誌については
以下のサイトがすばらしく詳しいです。
● 「BD oubliees」内「メタル・ユルラン」のページ
● 同上内「メタル・ユルラン」発刊年一覧
● 同上内「メタル・ユルラン」1975年のページ
● 同上内「メタル・ユルラン」1976年のページ
● 同上内「メタル・ユルラン」所収の『アルザック』一覧
上記サイトの記述によると、
『アルザック』は「メタル・ユルラン」の1975年~1976年の号に
発表されたようです。
一番最初の作品は「メタル・ユルラン」1975年第1号に発表された
合計8ページのエピソードのようです。
ここで、この一番最初の8ページのエピソードについて、
もう少し詳しく検討してみましょう。
アルバム『アルザック』には、
四つのまとまった「アルザック」のエピソードが収録されています。
(一番最初のモノクロの作品は、
『LA DEVIATION』〔まわり道〕という
「アルザック」とは別個の作品です。
アルバム『アルザック』には2種類の作品が併録されているのです)
簡単に確認しておきましょう。
*便宜的にそれぞれのエピソードに題名を付けてあります。
ページ数は2000年1月発行のNouvelle edition, ISBN:2731614080
に拠ります。
(1) 塔のなかの美女のエピソード
題名は「ARZACH」と表記。
21~28ページ(合計8ページ)。
塔のなかに居る美女を奪うために、
塔のうえに居た男と戦い、
いざ美女と対面してみたら……、という話。
(2) 猿の心臓のエピソード
題名は「HARZAK」と表記。
29~36ページ(合計8ページ)。
アニメ『アルザック・ラプソディ』の
「猿の心臓」の元になったエピソード。
肉食植物の繁茂する荒野で一休みするために、
休憩地を賭けて大猿と知恵くらべをする話。
(3) 美しき修理士のエピソード
題名は「ARZACH」と表記。
37~44ページ(合計8ページ)。
アニメ『アルザック・ラプソディ』の
「美しき修理士」の元になったエピソード。
古代遺跡のような建物のなかにある機械を
ある修理士が修理すると、
モニターにアルザックの様子が映し出され、
それまで気を失っていた翼竜が目を覚ます様子が映される、
という話。
メタ的な構造をもつ話。
(4) アルザックがのぞきをするエピソード
題名は「HARZACH」と表記。
45~49ページ(合計5ページ)。
かなり支離滅裂な話なので、要約は困難。
45~46ページ、47~49ページ、という
二つのエピソードに分かれているのかも知れない。
まず確認しておきたいのは、
「アルザック」の一番最初のエピソードは
「Arzach」という題名の8ページのエピソードだという点です。
● 「BD oubliees」内「メタル・ユルラン」所収の『アルザック』一覧
一番最初のエピソードは(1)か(3)のいずれかのはずです。
ここで(3)のストーリーの構造に着目してみましょう。
(3)では、
話のメインになっているのはあくまで修理士の物語で、
アルザックは修理士の眺めるモニターのなかに映し出されるだけです。
つまりこの話は、
すでに存在している「アルザック」という作品の
一種のパロディーとして構想されているのです。
(3)が一番最初のエピソードである確率は低いと言えるでしょう。
要するに、
一番最初に発表されたエピソードは(1)だと考えられるわけです。
もちろん実際に「メタル・ユルラン」創刊号を見てみないと
どうしようも無いのですが、
確率としては一番高いのではないでしょうか。
いまのところは、この(1)のエピソードこそが、
バンド・デシネの歴史に革命を起こした当の作品、
としておきたいと思います。
《追記》
これも厳密に言うなら確実なソースではないのですが、
(1)が一番最初に発表された「アルザック」とする
もう一つの傍証を確認しました。
● 「MAJOR GRUBERT」内「textes interviews」
アルファベット順にアイコンが並んでいるなかの
「ComicJournal118 17」をクリックしてください。
アメリカのコミック専門誌に掲載された
メビウスのインタビュー記事の画像です。
ここに(1)の最初の1ページが図版として掲載されていますが、
この図版のうえのキャプションに以下のようにあります。
Where it all began:
The first installment of
“Arzach,” also in the
first Metal Hurlant.
すべてはここから始まった:
「アルザック」の連載第1回。
おなじく創刊号の「メタル・ユルラン」誌に
掲載されたもの。
原文中「installment」は「連載ものの一回分」という程の意味なので、
「アルザック」全体ではなく、
連載第1回の「アルザック」を特定して言っていると考えて良いでしょう。
まさしく、すべてはここから始まったわけです。
◆ 画像の紹介
次に紹介するのは、『アルザック』の画像を見ることが出来るサイトです。
表紙、8ページ、12ページ、21ページ、23ページ、29ページ、31ページ、
37~44ページ、46ページ、47ページ、50ページ、
の画像(全22ページ)を見ることが出来ます。
『アルザック』は全部で60ページなので、
全体の1/3ほどは下のリンク集でカバーすることが出来ます。
最後におまけとして、
大友克洋と宮崎駿が描いたアルザックの画像を見ることができるサイトも
紹介してみました。
● LES HUMANOIDOS ASSOCIES社公式サイト内
『Arzach』の紹介ページ
『アルザック』を出版しているLES HUMANOIDOS ASSOCIES社のページです。
表紙、
31ページ、
46ページ、
12ページの画像を見ることができます。
画像をクリックすれば大きなサイズで見ることも可能。
● 『アルザック』の1エピソードが読めるページ(グーグルキャッシュ)
『アルザック』の1エピソード(37~44ページ分)を
まるごと読めてしまうページ。
やはり著作権的にまずかったのか、ページそのものは消えてしまいましたが、
しっかりグーグルキャッシュに残っています。
サムネイルをクリックすれば大きなサイズで見ることも可能。
● 「MOEBIUS Fatal」内
『アルザック』の紹介ページ
おそらくメビウスのファンサイトとしてはもっとも有名なサイト、
「MOEBIUS Fatal」(メビウス、それは運命)のなかの、
『アルザック』の紹介ページです。
表紙、8ページ、21ページ、29ページ、50ページの画像を見ることが出来ます。
● 「BD NET.com」内
『アルザック』のページ
バンド・デシネの各作品の紹介と、オンライン書店の連携による販売を
行っているサイト、「BD NET.com」のなかの『アルザック』のページ。
29ページの画像を見ることが出来ます。
サムネイルをクリックすると大きなサイズで見ることも可能。
● 「BD GEST' Base de donnees BD」内『アルザック』のページ
読者参加型のバンド・デシネのデータベースのサイト、
「BD GEST' Base de donnees BD」(ベデの功績 ベデのデータベース)のなかの
『アルザック』のページです。
23ページの画像を見ることが出来ます。
サムネイルをクリックすると大きなサイズで見ることも可能。
● 「BD selection」の『アルザック』のページ
おなじく23ページの画像を見ることが出来ます。
● 「BD oubliee」(忘れさられたベデ)の「Arzach dans Metal Hurlant」
21ページ、29ページの画像を見ることが出来ます。
● 「NETSTOF.dk」の『アルザック』のページ
47ページの画像を見ることが出来ます。
● 「LES ARCHIVES NUMERIQUES DU MAJOR GRUBERT」のなかの
1ページ
メビウスの作品の画像が大量にアップされている驚異のサイト、
「LES ARCHIVES NUMERIQUES DU MAJOR GRUBERT」
(グラバート少佐のデジタル・アーカイブ)のなかの1ページです。
トップページ>
「Affiches Dessins Serigraphie」(ポスター、漫画、セリグラフ)>
「arzakLitho」(アルザックの化石)、
と階層をたどってください。
この画像は『アルザック』のアルバムには収められてはいません。
● ARZACH.
● Images of ARZACH
『アルザック』のトリビュート画集『ARZACH made in USA』所収の画像を
30枚前後見ることが出来ます。
メビウス本人の画像はごく一部ですが、
なんと大友克洋と宮崎駿によるアルザックの画像が
紹介されていたりします。
「LES ARCHIVES NUMERIQUES DU MAJOR GRUBERT」は、
「メビレンジャー」さんの
掲示板で報告されているものです。
あわせてご参照ください。