「メビウス、『メトロポリス』を語る」の訳注です。
他の関連記事については以下のインデックスを参照してください。
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目次:メビウス、『メトロポリス』を語る]
◆ アトラスとユゴーのガヴローシュ
アトラス(Atlas)は『メトロポリス』の登場人物、
ガヴローシュ(Gavroche)は
フランスの小説家ヴィクトル・ユゴー(Victor Hugo)の
小説『レ・ミゼラブル』に登場する少年のことです。
● 『メトロポリス』公式サイト内「CHARACTER>アトラス」
*アトラスの紹介画像として
特にこの画像が選ばれていることに注意しておいて下さい。
● ウィキペディア日内「ヴィクトル・ユーゴー」
● 同上内「レ・ミゼラブル」
*1800年代前半のフランス、
とくに1830年の七月革命前後が主な舞台になっています。
● 「Project Gutenberg」内「Les misérables Tome I」
● 同上内「Les misérables Tome II」
● 同上内「Les misérables Tome III」
● 同上内「Les misérables Tome IV」
● 同上内「Les misérables Tome V」
*『レ・ミゼラブル』のフランス語原文を読むことが出来ます。
全五巻の長大な作品です。
● アマゾン日内『レ・ミゼラブル』(新潮文庫)第一巻のページ
*僕はこの邦訳を参照しました。全五巻です。
● ウィキペディア仏内「Gavroche」
*ここで挙げられている画像がガヴローシュの一般的なイメージです。
ガヴローシュは
パリに住む浮浪児の典型的なイメージとして知られています。
「ABC」(仏語で「アベセー」と発音)という革命団と仲良くなって、
1832年のパリ市での蜂起に参加、12歳で銃弾に倒れます。
口は悪いが憎めない小僧、という感じの人物です。
『レ・ミゼラブル』から特に関連のありそうな箇所を引いておきます。
この物語の第二部で述べた出来事から、およそ八、九年たったころ、タンプル大通りや、シャトー・ドーの近辺で、十一、二歳の男の子が見受けられた。[中略]この子は大人のズボンを変な具合にはいていたが、それは父親譲りのものではなかったし、女ものの上着を着ていたが、それも母親譲りではなかった。
[中略]
言い忘れたが、この子は、タンプル大通りではプチ・ガブローシュと呼ばれていた。
Huit ou neuf ans environ après les évènements racontés dans la deuxième partie de cette histoire, on remarquait sur le boulevard du Temple et dans les régions du Château-d'Eau un petit garçon de onze à douze ans [中略]Cet enfant était bien affublé d'un pantalon d'homme, mais il ne le tenait pas de son père, et d'une camisole de femme, mais il ne la tenait pas de sa mère.
[中略]
Nous avons oublié de dire que sur le boulevard du Temple on nommait cet enfant le petit Gavroche.
[佐藤朔訳、新潮文庫第三巻32~35ペイジ、第三部第一章13、以下同様]
*ガブローシュの初登場場面です。
[前略]パリにはこの種の結社の数ある中で、ABCの友の会というのがあった。
[中略]
ABCの友と自称していたが、つまり「下層の者」[ルビ:アベセー]で、民衆のことだった。その民衆を立ち上がらせようとしたのである。
[中略]
ABCの友のいつもの秘密集会は、キャフェ・ミュザンの奥の部屋で行われた。
il y avait à Paris, entre autres affiliations de ce genre, la société des Amis de l'A B C.
[中略]
On se déclarait les amis de l'A B C.—L'Abaissé, c'était le peuple. On voulait le relever.
[中略]
Les conciliabules habituels des Amis de l'A B C se tenaient dans une arrière-salle du café Musain.
[第三巻110~111ペイジ、第三部第四章1]
*革命を志す秘密結社の名前は
「下層の者」との掛詞になっています。
(仏語ではどちらも「アベセー」と発音)
この結社の団員の一人マリユスが
ガヴローシュの家の隣に住んでいたことから、
ガヴローシュが革命団の団員に可愛がられるようになります。
このとき、ぼろをまとった一人の少年が、メニルモンタン通りからやって来た。[中略]骨董屋のおかみさんのいる店先で、乗馬用のピストルを発見した。彼は花のついた枝を敷石に捨てて、叫んだ。
「おばさん、こいつを借りるよ」
そして彼はそのピストルを持って逃げ出した。
[中略]
それは戦いに行くプチ・ガヴローシュだった。
大通りまで来たとき、彼はピストルに撃鉄がないことに気がついた。
En ce moment un enfant déguenillé qui descendait par la rue Ménilmontant,[中略]avisa dans la devanture de boutique d'une marchande de bric-à-brac un vieux pistolet d'arçon. Il jeta sa branche fleurie sur le pavé, et cria:
—Mère chose, je vous emprunte votre machin.
Et il se sauva avec le pistolet.
[中略]
C'était le petit Gavroche qui s'en allait en guerre.
Sur le boulevard il s'aperçut que le pistolet n'avait pas de chien.
[第四巻391~392ペイジ、第四部第十一章1]
*ガヴローシュが蜂起に加わる場面です。
一般的なイメージではガブローシュは銃を持っていますが、
じつは、彼は子供なので
なかなか銃を持たせてもらえていません。
この銃にも撃鉄が付いていないとあります。
だが、一弾が、ほかのよりも狙いがよかったのか、陰険だったのか、とうとう鬼火のような子供にあたった。ガヴローシュはよろめいたと見るままに、くず折れた。[中略]一筋の血が顔に長く糸をひいた。両手を空中にあげ、弾丸の来る方を見つめて、歌いだした。
俺は地面に倒れた、
そりゃ、ヴォルテールのせいだ、
どぶに鼻をつっこんだ、
そりゃ、ルソーの……
彼は歌い終わらなかった。同じ射手の第二弾が、それをぴたり止めたのだ。[中略]この小さな偉大な魂は、今飛び去ったのである。
Une balle pourtant, mieux ajustée ou plus traître que les autres, finit par atteindre l'enfant feu follet.[中略]un long filet de sang rayait son visage, il éleva ses deux bras en l'air, regarda du côté d'où était venu le coup, et se mit à chanter.
Je suis tombé par terre,
C'est la faute à Voltaire,
Le nez dans le ruisseau,
C'est la faute à....
Il n'acheva point. Une seconde balle du même tireur l'arrêta court.[中略]Cette petite grande âme venait de s'envoler.
[第五巻77~78ペイジ、第五部第一章15]
*ガヴローシュの死の場面です。
ガヴローシュはよく歌を歌う人物でもあります。
アトラスがガヴローシュを暗示(allusion)している場面というのは、
以下の場面を指しているのでしょう。

[57:42]
なお、以下の記事も参照してください。
[
訳注『メトロポリス』:ドラクロワの『民衆を導く自由の女神』]
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目次:メビウス、『メトロポリス』を語る]