「メビウス、『メトロポリス』を語る」の訳注です。
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目次:メビウス、『メトロポリス』を語る]
◆ フリッツ・ラングの『メトロポリス』
インタビュー原文を直訳とともに挙げておきます。
On voit bien que Métropolis, c’est une leçon aussi.
人々は『メトロポリス』も確かに観る。これも一つの教訓だ。
原文では単に「メトロポリス」(Métropolis)とされているのですが、
これは、ドイツの監督フリッツ・ラングが1927年に発表した
SFの古典的映画『メトロポリス』を指していると思います。
● ウィキペディア日内「メトロポリス (1927年の映画)」
● ラング版『メトロポリス』公式サイト
● 「goo映画」内「メトロポリス(1926)」
ラング版『メトロポリス』にはいくつかのバージョンがあるのですが、
ポピュラーなのは1927年版と1984年編集版のようです。
メビウスがどのバージョンを想定しているのかは分からないのですが、
1984年版はオリジナルとは別個の作品と称されているので、
1927年版を想定しておけば良いでしょう。
問題は2002年版なのですが、
2001年 5月26日 りんたろう版『メトロポリス』日本公開
2002年 6月 5日 りんたろう版『メトロポリス』フランス公開
2002年 7月12日 ラング版『メトロポリス』再編集版がアメリカ公開
2002年12月 5日 りんたろう版『メトロポリス』DVDがフランスで発売
というように、
りんたろう版『メトロポリス』の公開日程と微妙に前後していて、
インタビューの時点で
メビウスがラングの2002年版を観ているかどうかはっきりしません。
(メビウスのインタビューは
りんたろう版のDVDがフランスで発売された際に
特典として付けられているので、
すくなくともそれまでには行われているはずです。
インタビューの正確な日程は判明していません。)
● 「IMDB」内「Metropolis (1927)>release dates」
*ラング版『メトロポリス』各バージョンの公開日程の一覧ページです。
● 同上内「Metoroporisu (2001)>release dates」
*同様にりんたろう版『メトロポリス』のページです。
● アマゾン仏内『Metropolis - Edition Collector 2 DVD』
*フランスで発売されたこのDVDの特典として、
当該インタビューが収められています。
DVDの発売日は「5 Déc 2002」(2002年12月5日)です。
ただし、メビウスは日本の「漫画」・アニメの熱心なファンで、
大友克洋とも個人的な付き合いがあるようなので、
もしかしたら日本やフランスでの公開に先駆けて
りんたろう版を観ている可能性があります。
その時点ではラング版2002年版は公開されていません。
● [記者会見記事の下訳のまとめ1:「宮崎駿―メビウス」展]
*当時アメリカに住んでいたメビウスは、
アメリカでの一般公開に先駆けて、
海賊版の『風の谷のナウシカ』のビデオ
(日本版のビデオにアメリカのファンが字幕を付けたもの)
を観ていたようです。
● [宮崎駿とメビウスの対談]
*宮崎駿とメビウスの対談のなかで、
『となりのトトロ』のビデオを
宮崎駿がメビウスに個人的に送ることを申し出ています。
● [メビウス&大友克洋対談記事:「OTOMOEBIUS」1>注6]
*『スチームボーイ』もフランスでの公開に先駆けて観ているようです。
このように、メビウスは
一般公開に先駆けて日本のアニメ映画を観ることがあるようです。
ひとまずは1927年版を想定しておけば良いでしょう。
● アマゾン日内『メトロポリス』のページ
*僕はこのDVDをレンタルで観ました。
淀川長治総監修『世界クラシック名画100撰集』(3)、1927年版です。
りんたろう版『メトロポリス』が
ラング版『メトロポリス』を出典としていることは
説明するまでもないでしょう。
その意味も含めて、ラング版『メトロポリス』は必見です。
モノクロで音声も付いていない映画ですが、
そんなことは全く気になりません。
むしろそれこそが魅力になっています。
色や音に頼らずとも、
役者の表情やしぐさ、美術などが雄弁に語りかけてくるように
作られています。
りんたろう版が出典としている要素は多々あるので
いちいち挙げることは出来ませんが、
ここでは、
ヒロインのマリアが地下世界で
労働者たちにバベルの塔の講話を語る場面を取り上げたいと思います。
Today I will tell you the story of the Tower of Babel.
きょうはバベルの塔の話をします
Let us build a tower whose summit will touch the skies--
「天までとどく塔を建設しようではないか
--and on it we will inscribe :
'Great is the world and its Creator.
And great is Man.'
偉大なる世界と創造主 そして
偉大なる人間を記念するために」
Those who had conceived the idea of this tower
could not build it themselves,
so they hired thousands of others to build for them.
建設工事のために大勢の人が
土工として雇われました
But these toilers knew
nothing of the dreams of those who planned the tower.
しかし土工達は塔建設の立案者の理想には無知でした
While those who had conceived the tower
did not concern themselves with the worker who built it.
一方、立案者たちには
現場土工達への思いやりがありませんでした
The hyms of praise of the few
became the curses of the many.
少数者の喜びは多数者にとって呪いでした
BABEL
バベル
Between the brain that plans
and the hands that build there must be a mediator.
計画立案者と現場の労働者の間には調停者が必要でした
It is the heart
that must bring about an understanding between them.
たがいの理解のための心が必要だったのです
[上記DVDより。訳はDVDの字幕に拠り、表記を改めた箇所がある]
この映画が、
労働者を善とし資本家を悪と決め付けるような、
共産主義にありがちな陳腐で一方的な構図にはおさまらないことを
物語っています。
メビウスがりんたろう版『メトロポリス』のテーマを
「le cœur」(「心」、英語の「heart」に相当)としていることと併せて、
非常に重要な場面だと思います。
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