今回はメビウスとはまったく関係ない話です。
日本の漫画家荒木飛呂彦のコマ割りの方法についての考察です。
*当サイトはフランスの漫画家メビウスのファンサイトです。
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はじめてメビウスを知った方へ - 宮崎駿との対談動画によせて]
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基本用語解説]
この記事には全4記事のうちの最初の記事が収められています。
以下の記事につづきます。
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荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その2]
[
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その3]
[
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その4]
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以下のもくじ記事にリンクしていただけると助かります。
[
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - あなたは今どんな姿勢でモニターを見ているのか?]
なお、この考察文にコメントをいただける場合は、
「『この例は絵の内容と関連している!』と思ったあなたへ」
[
コメントやメール等に返信することはもう出来ません]
を参照していただけると本当に助かります。
荒木飛呂彦は非常に特徴的なコマ割りをすることが知られています。
この非常に“奇妙な”コマ割りは、
一体どういったルールに従っているのでしょうか。
僕はこれは、ページ全体を傾けることによって
読者の平衡感覚を狂わせる手法だと考えています。
*以下、荒木飛呂彦の「ジョジョの奇妙な冒険」から多数の引用をしますが、
僕の個人的な事情から、
ジャンプ・コミックス版と集英社文庫版がごちゃ混ぜになっています。
それぞれ「単」「文」と表記して区別しておきます。
僕がどちらか一方で全巻そろえていないための措置です。
以下のプログラムに従います。
(項目のクリックで該当箇所に飛びます)
1 荒木飛呂彦の奇妙なコマ割り - そこにもルールはある
荒木飛呂彦の特徴的なコマ割り(以下「荒木割り」と略)が、
単に変則的なだけではなくて、
一定のルールに従っていることを確認します。
そのルールとは何なのでしょうか。
2 コマ割りの基本モデル - 4コマモデルと基準線
変則的なコマ割りを考察するまえに、
基本的なコマ割りを確認しておくことにしましょう。
3 コマ割りの変形ルールと諸類型 - 分割・統合、など
基本モデルに変形ルールを掛け合わせることによって、
漫画のコマ割りの様々なバリエーションを作り出すことが出来ます。
3-1 分割/縮小 - 時間の流れ
漫画のコマはさらに細かく分割/縮小することが出来ます。
3-2 統合/拡大 - 状況説明と強調
漫画のコマは、統合/拡大することによって
さらに大きなコマにすることが出来ます。
3-3 ななめ - 緊迫感
漫画のコマはななめに割ることも出来ます。
3-4 曲線 - 回想
漫画のコマは曲線で割ることも出来ます。
3-5 非線形的時間 - 回想・ダイジェスト・場面転換
特殊な時間の流れ方を表現するために、
変則的なコマ割りがされる場合があります。
3-6 めくり - 読者を意識したコマ割り
読者がペイジをめくる動作を促進するために、
変則的なコマ割りがされる場合があります。
4 ふたたび荒木飛呂彦の奇妙なコマ割り - 読者の平衡感覚を狂わせる
荒木割りには、読者の平衡感覚を狂わせる狙いがあると思います。
4-1 荒木割りとななめルール - 外線と内線のちがい
外線をななめに割るという荒木割りの特徴は、
他のどの類型を以っても分析できないものです。
4-2 なぜ外線がななめに割られるのか? - ペイジ全体を傾ける
ペイジ全体を傾ける、ペイジ全体をぶるぶる振るわせる、
というルールによって、荒木割りを分析することが出来ます。
4-3 なぜペイジ全体を傾けるのか? - 読者の平衡感覚を狂わせる
荒木割りには、読者の平衡感覚を狂わせる狙いがあると思います。
5 『ジョジョ』第三部のもう一つの戦い - 基準線と荒木割りのせめぎあい
第三部は、荒木割りが漫画表現として確立される過程の
興味深い記録になっています。
6 漫画以外の荒木割り - アイリスショットと『カリガリ博士』
漫画以外では、映画『カリガリ博士』のアイリスショットに、
荒木割りに似た例を見つけることが出来ます。
7 最後に - 狂ったのは平衡感覚だけか
狂ったのはあなたの人生なのかも……。
◆ 荒木飛呂彦の奇妙なコマ割り -
そこにもルールはある
まずは、荒木飛呂彦の特徴的なコマ割り(以下「荒木割り」と略)の
実例を見ておくことにしましょう。
[ジャンプ・コミックス『ジョジョの奇妙な冒険』第30巻、28~30ペイジ、
「単『ジョジョ』第30巻28~30ペイジ」と略、以下同様]
一見して分かるとおり特徴的な割り方ですが、
ここで重要なのは、
単に変則的なだけの割り方ではない、という点です。
たとえば次のようなコマ割りはどうでしょうか。
利き手が使えなくなった彫刻師が、腕の一瞬の痛みに耐える場面です。
彫刻師が感じた痛み、そして絶望を、
変則的なコマ割りによって表現したものだとは思うのですが、
無数の破片状に割られたコマをどの順番で読めば良いのか、
そもそも順番に読む必要があるのか、
さらには、コマ割りとして処理して良いのかすら迷うほどの、
非常に変則的な割り方です。
こういった例と比べるならば、
荒木割りははるかに基本に忠実な割り方と言えるのではないでしょうか。
(コマの形が変則的なだけで、読む順番に迷うことはまずありません)
つまりそこには、変則的ではありながら、
一定のルールがあると考えられるわけです。
そのルールとはどういったものなのでしょうか。
それを分析するために、まずは、
漫画のコマ割りのもっとも基本的な方法を考えておくことにしましょう。
◆ コマ割りの基本モデル -
4コマモデルと基準線
ストーリー漫画のコマ割りの基本的なモデルを考えて見ましょう。
おおよそ以下のようになると思います。
漫画のコマ割りのもっとも基本的な役割は、
時間の経過を表現することです。
複数のコマによって時間の経過を表現することで、
漫画ははじめて一定の物語(ストーリー)を表現することが出来るわけです。
複数のコマは通常、
横一列を順番に読んだあとにその下の段に移るきまりに成っていますから、
ストーリー漫画の1ペイジあたりの最小コマ数は、
基本的には4コマであるはずです。
上図のコマ内の丸抜きの数字がコマを読む順番です。
アルファベットのS字型にコマを追って読んで行くわけです。
(ただし、アメリカのアメコミやフランスのベデは、
横一列を左から右へ追うきまりになっています。
アルファベットのZ字型です。
日本語と英仏語の表記法の違いに基づいているのでしょう)
コマを読む順番はそのまま、作品内の時間が流れる順番でもあります。
上記のモデルが横にふたつ連なることによって見開き2ペイジ分になり、
さらにそれらが冊子状にまとまることによって、
ストーリー漫画が出来あがります。
コマ割りの基本モデルとしては
上の分析がもっとも簡単なものだと思うのですが、
後述の分析の便宜のために、
もうすこし詳しく分析しておきたい点があります。
基本的な要素は先ほどと同じなのですが、
ここで拘(こだわ)っておきたいのは、
漫画のコマは通常、一定の枠内に収まるように割られている、
という点です。
コマの端がページの端にかかることはまずありません。
(後述の変則的な割り方はここでは考えません)
この一定の枠を「
基準線」と呼んでおくことにしましょう。
また、コマのワク線のうち、
ページの端に面しているものを「
外側のワク線」(「
外線」と略)、
ページの端に面していないものを「
内側のワク線」(「
内線」と略)、
と分類しておくことにしましょう。
他の作家の作品を分析するためには必要のない分類ですが、
荒木割りを分析するためには、
この分類がのちのち大きな意味を持つようになります。
以上の
基本モデルをもとにすれば、
漫画のコマ割りの様々なバリエーションを
分析できるようになるはずです。
*上記のモデルや専門用語は、
当面の分析のために僕が勝手にでっち上げたものなので、
一般的なものとは異なっているかも知れません。
その場合は見なかった振りをしておいてください。
なお、コマ割りの類型としてはこの他に「四コマ漫画」がありますが、
いまは考える必要はないでしょう。
以下の記事につづきます。
[
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その2]
[
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - もくじ]
[
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その1]
[
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その2]
[
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その3]
[
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その4]