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荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - あなたは今どんな姿勢でモニターを見ているのか?
今回はメビウスとはまったく関係ない話です。
日本の漫画家荒木飛呂彦のコマ割りの方法についての考察です。
 *当サイトはフランスの漫画家メビウスのファンサイトです。
 ● [はじめてメビウスを知った方へ - 宮崎駿との対談動画によせて
 ● [基本用語解説

荒木飛呂彦は非常に特徴的なコマ割りをすることが知られています。
この非常に“奇妙な”コマ割りは、
一体どういったルールに従っているのでしょうか。
僕はこれは、ページ全体を傾けることによって
読者の平衡感覚を狂わせる手法だと考えています。


記事が非常に長くなってしまったので、四つに分けることにしました。
全4記事のもくじです。
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その1]:問題を設定します。
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その2]:基礎的な分析をします。
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その3]:荒木割りの分析です。
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その4]:荒木割りの発展的考察です。
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - 追記]:作者の意図は関係ありません。

返信が遅れてすいません]寄せられたコメントへの返信です。
メモ:荒木割り数の訂正]訂正の記録です。
# by moebius-labyrinth | 2006-12-18 18:05 | - 番外篇 -
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その1
今回はメビウスとはまったく関係ない話です。
日本の漫画家荒木飛呂彦のコマ割りの方法についての考察です。
 *当サイトはフランスの漫画家メビウスのファンサイトです。
 ● [はじめてメビウスを知った方へ - 宮崎駿との対談動画によせて
 ● [基本用語解説


この記事には全4記事のうちの最初の記事が収められています。
以下の記事につづきます。
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その2
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その3
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その4
記事全体にリンクしていただける場合は、
以下のもくじ記事にリンクしていただけると助かります。
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - あなたは今どんな姿勢でモニターを見ているのか?
なお、この考察文にコメントをいただける場合は、
「『この例は絵の内容と関連している!』と思ったあなたへ」
コメントやメール等に返信することはもう出来ません
を参照していただけると本当に助かります。


荒木飛呂彦は非常に特徴的なコマ割りをすることが知られています。
この非常に“奇妙な”コマ割りは、
一体どういったルールに従っているのでしょうか。
僕はこれは、ページ全体を傾けることによって
読者の平衡感覚を狂わせる手法だと考えています。
 *以下、荒木飛呂彦の「ジョジョの奇妙な冒険」から多数の引用をしますが、
 僕の個人的な事情から、
 ジャンプ・コミックス版と集英社文庫版がごちゃ混ぜになっています。
 それぞれ「単」「文」と表記して区別しておきます。
 僕がどちらか一方で全巻そろえていないための措置です。


以下のプログラムに従います。
(項目のクリックで該当箇所に飛びます)

 1 荒木飛呂彦の奇妙なコマ割り - そこにもルールはある
  荒木飛呂彦の特徴的なコマ割り(以下「荒木割り」と略)が、
  単に変則的なだけではなくて、
  一定のルールに従っていることを確認します。
  そのルールとは何なのでしょうか。
 2 コマ割りの基本モデル - 4コマモデルと基準線
  変則的なコマ割りを考察するまえに、
  基本的なコマ割りを確認しておくことにしましょう。
 3 コマ割りの変形ルールと諸類型 - 分割・統合、など
  基本モデルに変形ルールを掛け合わせることによって、
  漫画のコマ割りの様々なバリエーションを作り出すことが出来ます。
  3-1 分割/縮小 - 時間の流れ
   漫画のコマはさらに細かく分割/縮小することが出来ます。
  3-2 統合/拡大 - 状況説明と強調
   漫画のコマは、統合/拡大することによって
   さらに大きなコマにすることが出来ます。
  3-3 ななめ - 緊迫感
   漫画のコマはななめに割ることも出来ます。
  3-4 曲線 - 回想
   漫画のコマは曲線で割ることも出来ます。
  3-5 非線形的時間 - 回想・ダイジェスト・場面転換
   特殊な時間の流れ方を表現するために、
   変則的なコマ割りがされる場合があります。
  3-6 めくり - 読者を意識したコマ割り
   読者がペイジをめくる動作を促進するために、
   変則的なコマ割りがされる場合があります。
 4 ふたたび荒木飛呂彦の奇妙なコマ割り - 読者の平衡感覚を狂わせる
  荒木割りには、読者の平衡感覚を狂わせる狙いがあると思います。
  4-1 荒木割りとななめルール - 外線と内線のちがい
   外線をななめに割るという荒木割りの特徴は、
   他のどの類型を以っても分析できないものです。
  4-2 なぜ外線がななめに割られるのか? - ペイジ全体を傾ける
   ペイジ全体を傾ける、ペイジ全体をぶるぶる振るわせる、
   というルールによって、荒木割りを分析することが出来ます。
  4-3 なぜペイジ全体を傾けるのか? - 読者の平衡感覚を狂わせる
   荒木割りには、読者の平衡感覚を狂わせる狙いがあると思います。
 5 『ジョジョ』第三部のもう一つの戦い - 基準線と荒木割りのせめぎあい
  第三部は、荒木割りが漫画表現として確立される過程の
  興味深い記録になっています。
 6 漫画以外の荒木割り - アイリスショットと『カリガリ博士』
  漫画以外では、映画『カリガリ博士』のアイリスショットに、
  荒木割りに似た例を見つけることが出来ます。
 7 最後に - 狂ったのは平衡感覚だけか
  狂ったのはあなたの人生なのかも……。


◆ 荒木飛呂彦の奇妙なコマ割り - そこにもルールはある
まずは、荒木飛呂彦の特徴的なコマ割り(以下「荒木割り」と略)の
実例を見ておくことにしましょう。
単『ジョジョ』第30巻28~30ペイジ
[ジャンプ・コミックス『ジョジョの奇妙な冒険』第30巻、28~30ペイジ、
 「単『ジョジョ』第30巻28~30ペイジ」と略、以下同様]
一見して分かるとおり特徴的な割り方ですが、
ここで重要なのは、
単に変則的なだけの割り方ではない、という点です。

たとえば次のようなコマ割りはどうでしょうか。
利き手が使えなくなった彫刻師が、腕の一瞬の痛みに耐える場面です。
手塚治虫『火の鳥 鳳凰編』角川文庫46ペイジ
彫刻師が感じた痛み、そして絶望を、
変則的なコマ割りによって表現したものだとは思うのですが、
無数の破片状に割られたコマをどの順番で読めば良いのか、
そもそも順番に読む必要があるのか、
さらには、コマ割りとして処理して良いのかすら迷うほどの、
非常に変則的な割り方です。

こういった例と比べるならば、
荒木割りははるかに基本に忠実な割り方と言えるのではないでしょうか。
(コマの形が変則的なだけで、読む順番に迷うことはまずありません)
つまりそこには、変則的ではありながら、
一定のルールがあると考えられるわけです。
そのルールとはどういったものなのでしょうか。
それを分析するために、まずは、
漫画のコマ割りのもっとも基本的な方法を考えておくことにしましょう。


◆ コマ割りの基本モデル - 4コマモデルと基準線
ストーリー漫画のコマ割りの基本的なモデルを考えて見ましょう。
おおよそ以下のようになると思います。
コマ割りの基本モデル-1
漫画のコマ割りのもっとも基本的な役割は、
時間の経過を表現することです。
複数のコマによって時間の経過を表現することで、
漫画ははじめて一定の物語(ストーリー)を表現することが出来るわけです。
複数のコマは通常、
横一列を順番に読んだあとにその下の段に移るきまりに成っていますから、
ストーリー漫画の1ペイジあたりの最小コマ数は、
基本的には4コマであるはずです。
上図のコマ内の丸抜きの数字がコマを読む順番です。
アルファベットのS字型にコマを追って読んで行くわけです。
(ただし、アメリカのアメコミやフランスのベデは、
 横一列を左から右へ追うきまりになっています。
 アルファベットのZ字型です。
 日本語と英仏語の表記法の違いに基づいているのでしょう)
コマを読む順番はそのまま、作品内の時間が流れる順番でもあります。
上記のモデルが横にふたつ連なることによって見開き2ペイジ分になり、
さらにそれらが冊子状にまとまることによって、
ストーリー漫画が出来あがります。

コマ割りの基本モデルとしては
上の分析がもっとも簡単なものだと思うのですが、
後述の分析の便宜のために、
もうすこし詳しく分析しておきたい点があります。
コマ割りの基本モデル-2
基本的な要素は先ほどと同じなのですが、
ここで拘(こだわ)っておきたいのは、
漫画のコマは通常、一定の枠内に収まるように割られている
という点です。
コマの端がページの端にかかることはまずありません。
(後述の変則的な割り方はここでは考えません)
この一定の枠を「基準線」と呼んでおくことにしましょう。
また、コマのワク線のうち、
ページの端に面しているものを「外側のワク線」(「外線」と略)、
ページの端に面していないものを「内側のワク線」(「内線」と略)、
と分類しておくことにしましょう。
他の作家の作品を分析するためには必要のない分類ですが、
荒木割りを分析するためには、
この分類がのちのち大きな意味を持つようになります。

以上の基本モデルをもとにすれば、
漫画のコマ割りの様々なバリエーションを
分析できるようになるはず
です。
 *上記のモデルや専門用語は、
 当面の分析のために僕が勝手にでっち上げたものなので、
 一般的なものとは異なっているかも知れません。
 その場合は見なかった振りをしておいてください。
 なお、コマ割りの類型としてはこの他に「四コマ漫画」がありますが、
 いまは考える必要はないでしょう。


以下の記事につづきます。
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その2


荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - もくじ
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その1
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その2
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その3
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その4
# by moebius-labyrinth | 2006-12-18 17:54 | - 番外篇 -
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その2
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その1]のつづきです。


◆ コマ割りの変形ルールと諸類型 - 分割・統合、など
前節で設定した基本モデルに、
さまざまな変形ルールを掛け合わせることによって、
漫画のコマ割りのいろいろなバリエーションを作り出すことが出来ます


 ◆ 分割/縮小 - 時間の流れ
漫画のコマは、さらに細かく分割/縮小することが出来ます
そもそもコマは、複数に割られることによってストーリー漫画に成り得る
わけですから、
この「分割/縮小」ルールこそは、
漫画のコマ割りを成り立たせる最も基本的なルールだと言えるでしょう。
(割られたコマが「分割」された結果なのか「縮小」された結果なのかは
 解釈の分かれるところだと思うので、
 ひとまず「分割/縮小」ルールと名づけておくことにします)
分割/縮小ルールによって時間の流れを表現できるようになる
という点も、上述の通りです。

先述の基本モデルに分割/縮小ルールを掛け合わせることによって、
以下のコマ割りをつくることが出来ます。
分割/縮小モデル
基本モデルの四つのコマを横にさらに二分割したものです。
この8コマのモデルが、
実際に作品に現れるかぎりでは最も基本的なコマ割りだと思います。
藤子・F・不二雄『大長編ドラえもん 3 のび太の大魔境』小学館コロコロ文庫34~36ペイジ
連続する3ページがすべて8コマのモデルに従っている例です。
コマの縦線が段によって食い違っている例が多々ありますが、
(たとえば、34ペイジ1コマ目と2コマ目のあいだと、
 3コマ目と4コマ目のあいだが上下で食い違っています)
これはコマを読む順番を明確に示すための措置でしょう。
段違いになっていることによって、
コマを縦一列に読む可能性が排除されているわけです。
(1コマ目→3コマ目という順番で読まれないようにしてある)

手塚治虫『火の鳥 黎明編』角川文庫98ペイジ
さらに細かく分割/縮小されている例です。

 ◆ 統合/拡大 - 状況説明と強調
漫画のコマは、
二つのコマを統合、もしくは一つのコマを拡大することによって、
さらに大きなコマにすることが出来ます

これも、
漫画のコマ割りを成り立たせている基本的なルールと言えるでしょう。
統合/拡大ルールによって、
状況説明をしたり、特定の場面・内容を強調できるようになります


統合/拡大モデル
藤子・F・不二雄『大長編ドラえもん 3 のび太の大魔境』小学館コロコロ文庫10ペイジ
作品の冒頭です。
いちばん最初に大きいコマを持ってくることによって、
作品の状況を説明しています。
舞台は町のなか、時間は夜、
雨が降っている中を一匹の犬がヨタヨタと歩いている、
こういった情報が最初に与えられることによって、
読者が作品世界を簡単に理解できるようになっています。
たとえばこの作品が2コマ目から始まっていたら、
読者は何が起こっているか分からずに、作品を楽しめなくなるでしょう。

藤子・F・不二雄『大長編ドラえもん 3 のび太の大魔境』小学館コロコロ文庫116ペイジ
いちばん最後のコマに注目してください。
うなるような音を発する岩を発見したおどろきが、
大きいコマによって強調されています。

手塚治虫『ブラック・ジャック』第4巻秋田文庫224~225ペイジ
「デカの心臓」というエピソードの冒頭2ペイジです。
各ペイジの最初のコマに注目してください。
状況説明のための大きなコマと、強調のための大きなコマを
同時に観察できる例です。
224ペイジ最初のコマで作品の状況が説明され、
225ペイジ最初のコマでは、
「出可」(でか)と呼ばれる巨体の男の大きさが
大きなコマによって強調されています。

強調のための統合/拡大は、さらに規模を大きくして、
1ペイジ全体、見開き2ペイジ全体をぶちぬく、
さらに大きなコマをつくることも出来ます。
藤子・F・不二雄『大長編ドラえもん 3 のび太の大魔境』小学館コロコロ文庫110ペイジ
「すごいがけ」のすごさが、
1ペイジ全体をぶちぬく大きな一つのコマによって強調されています。
手塚治虫『火の鳥 鳳凰編』角川文庫264~265ペイジ
大規模な旱魃におそわれた広大な大地の不毛さ、
それを見て「ひどすぎる」と歎ずる人物の無力感などが、
見開き2ペイジをぶちぬく大きな一つのコマによって強調されています。

統合/拡大ルールによって作られた大きなコマは、
基準線をはみ出ることによってさらに強調の度合いを強めることも出来ます。
藤子・F・不二雄『大長編ドラえもん 4 のび太の海底鬼岩城』小学館コロコロ文庫24~25ペイジ
同上26ペイジ
のび太がドラえもんの秘密道具を使って、
海底の高い山を見る場面です。
「地上でみられない雄大なけしき」の雄大さが、
基準線をはみ出した大きなコマによって強調されています。

手塚治虫『ブラック・ジャック』第6巻秋田文庫64ペイジ
「ケヤキの大木」の大きさが、
基準線をはみ出した大きなコマによって強調されています。

以上の、分割/縮小、統合/拡大の二つのルールが、
ストーリー漫画のコマ割りを成り立たせている基本的なルールでしょう。
たとえば、上に挙げた藤子・F・不二雄の「ドラえもん」などは、
この二つのルールによってほぼ全てのコマ割りを分析できるほどです。
なによりも小さな子供に楽しんでもらうための作品なので、
意識的に基本的なコマ割りに徹しているのでしょう。

 ◆ ななめ - 緊迫感
漫画のコマは基本的には長方形をしていますが、
ななめに割ってひし形や三角形のコマにすることが出来ます
ななめルールによって緊迫感を表現できるようになります

ななめモデル
手塚治虫『ブラック・ジャック』第2巻秋田文庫6ペイジ
最後の2コマがななめに割られています。
(結果的に最後から3コマ目もななめに割られています)
急に地震に襲われた緊迫感が表現されています。
手塚治虫『ブラック・ジャック』第7巻秋田文庫312~313ペイジ
見開き2ペイジのコマが全てななめに割られている例です。
荷崩れ事故の緊迫感が表現されています。
先に挙げた『火の鳥』の変則的なコマ割りも、
ななめルールの極端な例として分析することが出来るでしょう。
手塚治虫『火の鳥 鳳凰編』角川文庫46ペイジ

 ◆ 曲線 - 回想
漫画のコマは、直線によって割るだけではなく、
曲線によって割ることも出来ます
曲線ルールによって
回想(過去の出来事を思い出す場面)を表現することが出来ます

曲線モデル
藤子・F・不二雄『大長編ドラえもん 3 のび太の大魔境』小学館コロコロ文庫138~141ペイジ
藤子・F・不二雄『大長編ドラえもん 3 のび太の大魔境』小学館コロコロ文庫138~141ペイジ
犬型のキャラクターが自分の過去を語る場面です。
過去の出来事を表現する際にコマの端を丸める、という、
曲線ルールのもっとも基本的な例です。
手塚治虫『ブラック・ジャック』第2巻秋田文庫40~41ペイジ
見開き2ペイジの一番右下のコマだけが直線的に割られていて、
その他のコマはすべて不定形の曲線によって割られています。
一番右下のコマのなかの品の良さそうなお婆さんが、
過去の出来事を語る場面です。
現在の出来事は直線的、過去の出来事は曲線的という基本を踏まえながら、
さらに不定形な曲線を利用することによって、
「あの奥さん」の「血の出るような」苦労が表現されています。
(これらの曲線は、血だまりをかたどっているのかも知れません)

以上の四つのルールによって、
ストーリー漫画に現れるコマの形のバリエーションは
ほとんど分析できるのではないかと思います。
もちろん興味深い例外はまだまだ沢山あるのですが、
(丸ゴマ、ずれたコマ、ワク線を消したコマなど)
当面の分析に必要な分は、すくなくともコマの形に関するかぎりでは、
以上で充分です。

 ◆ 非線形的時間 - 回想・ダイジェスト・場面転換
コマの形に関する分析は前節までで充分なのですが、
一定の内容に応じて変則的なコマ割りがされる場合があります。
これらについても簡単に確認しておくことにしましょう。

「非線形的時間」と物々しいタイトルを付けてしまいましたが、
要は、
特殊な時間の流れ方を表現するために、
変則的なコマ割りがされる場合がある
、ということです。
先に挙げた、回想を表わすための曲線ルールがその代表的な例です。

コマ割りによって表わされる時間は、
通常は直線的(線形的)に流れています。
コマを読む順番がそのまま時間の流れる順番になっています。
しかし、回想の場面では、
コマを読む順番と時間の流れる順番に食い違いが生じます。
図解:コマを読む順番と時間の流れる順番
この食い違いによって読者の頭を混乱させないために、
現在の出来事は直線的、過去の出来事は曲線的な線によってコマを割って、
区別が付くようにしてあるわけです。

非線形的時間の例は回想だけではありません。
時間の流れを速めるダイジェスト(もしくは早送り)の場面でも、
変則的なコマ割りがされます。
手塚治虫『ブラック・ジャック』第3巻秋田文庫85ペイジ
「六か月」分の時間の流れが、
ななめルールによって割られた最初の9コマによって表現されています。
六ヶ月のうち四日分の太陽と月がダイジェストで示された
と解釈することも出来るでしょうし、
六ヶ月が四日分に早送りされたと解釈することも出来るでしょう。
(静止画の漫画では動画の映画のように早送りすることが出来ないので、
 早送りの漫画的表現は必然的にダイジェストになってしまいます)
図解:ダイジェストと早送り

ダイジェスト/早送りに併せて場面転換がされる場合もあります。
単『ジョジョ』第14巻138ペイジ
爆発炎上した船からボートによって非難した人達が、漂流する場面です。
ここでは時間だけではなく場所も変化しています。
コマがかなり変則的に割られていますが、
基本的には、ななめルールと拡大ルールによるはみ出しで
処理しておけば良いでしょう。
非線形的時間を表現する場合には
かなり変則的なコマ割りがされる場合がある、
という点を確認しておけば、ひとまずは充分です。

 ◆ めくり - 読者を意識したコマ割り
漫画はふつう冊子状にまとめられるものですから、
漫画を読む際にはペイジをめくる必要があります。
この“ペイジをめくる”という動作に自覚的になり、
読者がペイジをめくる動作を促進するために、
変則的なコマ割りがされる場合があります

前節までのコマ割りの類型はほぼすべて漫画の内容にかかわるものでしたが、
(作品内時間の流れを表わしたり、特定の場面を強調したり)
作品の内容ではなく読者を明確に意識しているという点で、
めくりの類型はとても重要な意味を持ちます


浦沢直樹『MASTERキートン』第12巻ビッグコミックス161ペイジ
浦沢直樹『MONSTER』第6巻69ペイジ
ペイジの一番最初と一番最後のコマが、
拡大ルールによってそれぞれ上・下方向に基準線をはみ出しています。

問題は、このような例が一時的な例外としてではなく、
浦沢直樹の作品で多用されているという点です。
「MASTERキートン」「MONSTER」のほとんどすべてのエピソードで、
上に挙げたようなコマ割りがされています。
これは、拡大ルールによる強調効果だけでは説明がつきません。
そこで注目したいのが、ページをめくった次のコマです。
浦沢直樹『MASTERキートン』第12巻ビッグコミックス161~162ペイジ
浦沢直樹『MONSTER』第6巻69~70ペイジ
「船瀬君」に声をかけた人物が誰なのか、
暗闇のなかで女性が出会った人物がどのような顔をしているのか、が、
ページをめくることによって判明する仕掛けになっているわけです。
つまり、上の例で上・下方向にはみ出しているコマは、
正確に言うなら“前後のページに向かってはみ出している”と言うべきで、
このはみ出しによって、
ページをめくった向こう側(つまり前後のページ)に
読者の意識を誘導する効果をあげている、
と考えることが出来ると思うのです。

さらに次のような例を見てみましょう。
浦沢直樹『MASTERキートン』第5巻ビッグコミックス131~132ペイジ
ペイジをめくる動作を挟むことによって、
それまで味方だと思っていた太った男が急に敵に豹変する驚きが、
強調されています。
浦沢直樹『MASTERキートン』第6巻ビッグコミックス119~120ペイジ
作中人物が家の扉を開けて中の様子をうかがう場面です。
扉を開ける動作をペイジをめくる動作と連動させることによって、
作中の扉を実際に自分の手で開けているような感覚を、
読者が擬似的に体験できるようになっています。
浦沢直樹『MASTERキートン』第7巻ビッグコミックス11~12ペイジ
同様に、
箱のふたを開ける感覚を擬似的に体験できるようになっています。

浦沢直樹『MONSTER』第2巻209~210ペイジ
まず、210ペイジの4コマ目で、男と少女の位置関係を把握してください。
209ペイジの最後のコマは少女の視点から男を眺めた絵、
210ペイジの最初のコマは男の視点から少女を眺めた絵に、
ほぼ相当するはずです。
つまり、ここでペイジをめくる動作は、
互いに向き合っている二人の視線に沿って
読者の視線の方向を変える感覚に相当するわけです。
(二人のまわりを読者がぐるっと一回りするイメージ)
この“視線の方向を変える”という効果は、
次の例でさらに明確に現れています。
浦沢直樹『MASTERキートン』第17巻ビッグコミックス19~20ペイジ
19ペイジの最後のコマでは写真の裏側が、
20ペイジの最初のコマでは写真の表側が描かれています。
ここにペイジをめくる動作を挟むことによって、
作中の写真を実際に手にとって裏返すような感覚を、
読者が擬似的に体験できるようになっているわけです。

以上で、荒木割りを分析するための基礎的な分析は終わりです。
上に挙げた諸類型と比較することによって、
荒木割りの特徴をさらに厳密に分析することが出来るはず
です。


以下の記事につづきます。
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その3


荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - もくじ
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その1
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その2
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その3
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その4
# by moebius-labyrinth | 2006-12-18 17:50 | - 番外篇 -
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その3
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その2]のつづきです。


◆ ふたたび荒木飛呂彦の奇妙なコマ割り - 読者の平衡感覚を狂わせる
もう一度、荒木割りの例を挙げておくことにしましょう。
単『ジョジョ』第30巻28~30ペイジ

 ◆ 荒木割りとななめルール - 外線と内線のちがい
前章で挙げたコマ割りの諸類型と照らし合わせるならば、
上に挙げた荒木割りは、
ななめルールに則ったものとして分析することが出来るでしょう。
荒木割りで見られる変則的なコマの形は、
全てななめに切り取られた形をしています。

しかしながら、
荒木割りにはななめルールでは分析・説明しきれない要素がある
ように思います。
これも先に挙げた『火の鳥』の例と、
もう一度比較して見ることにしましょう。
手塚治虫『火の鳥 鳳凰編』角川文庫46ペイジ
単『ジョジョ』第30巻28~30ペイジ
重要なのは、外側のワク線と内側のワク線の違いです。
『火の鳥』がここまで変則的な割り方をしながら
基準線をしっかり守っているのに対し、
『ジョジョ』は外線だけをななめに割って内線は定型のままです。
内線をななめに割るか外線をななめに割るかという、
明確な違い
がここにはあります。

前章で挙げたコマ割りの諸類型のうち、
外線の変化に対応しているのは
拡大・曲線・非線形的時間・めくりの四類型ですが、
荒木割りはそのいずれとも異なっています。
拡大ルールでは
強調の度合いを強めるために基準線をはみ出す大きなコマがつくられる
ことがありますが、
荒木割りでは29ペイジの1コマ目・5コマ目、30ペイジの2コマ目以外はすべて、
コマの端はペイジの端の内側にとどまっています。
(ななめにはみ出たと考えることも出来ますが、
 いずれにしろ、荒木割りにしか見られない特徴です)
そもそも、上に挙げた場面では男と女が会話をしているだけで、
なんら強調すべき要素が見当たりません。
バトルやアクションを主体としているこの作品のなかでは
むしろ平穏な場面に属する例で、
拡大ルールによって強調する必要はないはずです。
また、コマの形はあくまで直線的で、
作品内時間もごく普通に流れていますし、
めくりの効果も見出せません。
すなわち、
外線をななめに割るという荒木割りの特徴は、
他のどの類型を以ってしても分析できない
ものなのです。

 ◆ なぜ外線がななめに割られるのか? - ペイジ全体を傾ける
荒木割りで、なぜ外線がななめに割られるのか?
そこで注目したいのが次のような例です。
単『ジョジョ』第50巻58ペイジ
単『ジョジョ』第55巻49ペイジ
単『ジョジョ』第43巻70ペイジ
かなり大胆にななめに割られているにもかかわらず、
すべてのワク線がお互いにほぼ直角に交わっていることに注目してください。
図解:ペイジ全体を傾ける
つまりこれらの例は、
ペイジ全体を傾けたコマ割りだと考えることが出来るのです。

ペイジ全体を傾けるというルールによって、
ほぼ全ての荒木割りを分析できるように思います

たとえば次のような例。
単『ジョジョ』第38巻160ペイジ
単『ジョジョ』第31巻80ペイジ
単『ジョジョ』第29巻178ペイジ
これらの例は、ペイジ全体を左右に何度も傾けたコマ割りです。
(ぶるぶる震えているような感じ)
図解:ペイジをぶるぶる振るわせる
さらに、定型的なコマ割りと荒木割りをミックスすることも出来ます。
荒木飛呂彦『死刑進行中脱獄進行中』202ペイジ
上の例で、外線がななめに割られているにも関わらず
内線がすべて定型的に割られていることに注目してください。
ペイジ全体を左右に何度も傾けるということは、
そのあいだにペイジが垂直になる瞬間も含まれている
ということなのですから、
ペイジをぶるぶる振るわせた結果、
ななめのコマ割りと垂直のコマ割りが同居する結果になるわけです。
(残像によって複数のポーズが重なって見える感じ)
定型的なコマ割りと荒木割りのミックス

ペイジ全体を傾ける、ペイジ全体をぶるぶる振るわせる、
というルールによって、
一番最初に挙げた荒木割りの例も分析できるはずです。
図解:残像によるミックス
この例ではペイジの四隅のコマがななめに割られていますが、
これは、ペイジ全体を左右にそれぞれ一回ずつ傾けたコマ割りを
残像によってミックスしたものです。

 ◆ なぜペイジ全体を傾けるのか? - 読者の平衡感覚を狂わせる
ではなぜペイジ全体を傾ける必要があるのでしょうか。
統合/拡大ルールやななめルールで見られたような、
特定の場面・内容の強調や緊迫感の表現などでは説明が付きません。
先にも述べましたが、いちばん最初に挙げた荒木割りの例は、
むしろ平穏な場面に属する例だからです。
非線形的時間でもありません。
また、作品世界がななめに傾いたりぶるぶる震えているわけでもありません。
手塚治虫『ブラック・ジャック』第17巻秋田文庫88ペイジ
嵐のなかを航行する船の中の様子を描いた例です。
船のゆれをそのままコマのゆれとして表現していますが、
荒木割りの例では作品世界はゆれてはいません。
単『ジョジョ』第30巻28~30ペイジ
つまり荒木割りは、
作品の内容とはほとんど何の関係もないコマ割り
なのです。

そこで注目されるのがめくりルールです。
めくりルールでは、作品の内容よりも、
ペイジをめくる読者の存在が強く意識されていました。
めくりは、読者がいてはじめて効果を発揮するコマ割りです。
これと同じようなことが、
荒木割りでも起こっているのではないかと思うのです。

次の例を見てみてください。
単『ジョジョ』第13巻93ペイジ
ペイジの天地(上下方向)と絵の天地が食い違っています。
こういった絵を見る際に、
本全体を傾けたり、自分の首を傾けたりしたことはないでしょうか。
実際にそのような措置をとれば、
絵の天地を正確に見ることが出来るはずです。
単『ジョジョ』第13巻93ペイジを左方向へ90度回転
つまりこの例は、読者に首を傾けさせる効果を持っているわけです。
同じような効果が、
コマの中の絵を傾けるのではなく、
コマのワク線を傾けることによっても得られるはずです。
単『ジョジョ』第50巻58ペイジ
単『ジョジョ』第50巻58ペイジを左方向へ10度回転
単『ジョジョ』第55巻49ペイジ
単『ジョジョ』第55巻49ペイジを右方向へ7度回転
単『ジョジョ』第43巻70ペイジ
単『ジョジョ』第43巻70ペイジを右方向へ9度回転
首を傾けることによって、
ワク線の天地をほぼ正確に見ることが出来ます。
この効果です。
つまり、
荒木割りがペイジ全体をぶるぶると振るわせるのは、
そのつど読者の首をぶるぶると振るわせる、
すなわち、読者の平衡感覚を狂わせる狙いがある
からなのではないでしょうか。
コマの中の絵ではなくコマのワク線を傾けることによって、
作品の内容の束縛を受けずに、
読者への効果だけを意識できるようになるはずです。


以下の記事につづきます。
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その4


荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - もくじ
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その1
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その2
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その3
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その4
# by moebius-labyrinth | 2006-12-18 17:46 | - 番外篇 -
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その4
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その3]のつづきです。


◆ 『ジョジョ』第三部のもう一つの戦い - 基準線と荒木割りのせめぎあい
荒木割りの最初の例を確認しておきましょう。
荒木割りか否かの判定基準は、外線がななめに割られているか否かです。
(その結果、ペイジ全体が傾く効果が上がっていなければなりません)
いくつか微妙な例もあるのですが、
僕の見たかぎりでは、第三部の次の例が最初だと思います。
単『ジョジョ』第14巻175ペイジ
そして『ジョジョ』第三部こそは、
荒木割りが漫画表現として確立される過程の
興味深い記録になっている
と思います。
第三部では主人公のジョジョ一行と敵役のディオの戦いが描かれますが、
その裏では、
漫画表現における基準線と荒木割りのせめぎあいという、
もう一つの戦いが描かれている
のです。

本題に入るまえに微妙な例も確認しておきましょう。
単『ジョジョ』第13巻11ペイジ
最後のコマの下のワク線がななめに割られているように見えますが、
枠外に「やがて忘れられた」というト書きが置かれているので、
外線がななめに割られているかどうかは微妙だと思います。
単『ジョジョ』第14巻164ペイジ
2コマ目の上のワク線がななめに割られていますが、
これはコマ全体がずれている例として処理すべきかも知れません。
手塚治虫『火の鳥 鳳凰編』角川文庫302ペイジ
1コマ目全体がずれることによって、
作中人物の怒りが強調されています。

本題です。
第三部の総ペイジ数に対する荒木割りの比率を算出してみました
第三部の総ペイジ数は2953ペイジ、総エピソード数は152です。
1エピソードは平均約20ペイジなので、
5エピソードごとにまとめて(合計平均約100ペイジ)、
荒木割りを含むペイジの数を数えてあります。
荒木割りペイジの数が、ほぼパーセンテージに相当するわけです。

エピソード数・グラフ(一つが10ペイジ分に相当)
・荒木割りペイジ数/総ペイジ数・備考
の順に示します。
001~005 0/102 微妙な例が1例ある(DIOの棺桶)
006~010 0/97
011~015 0/100
016~0201/96 微妙な例が1例と最初の例("力"のスタンド)がある
021~0251/95 ディオをテレビで透視する場面に1例
026~0301/95 黄の節制に1例
031~0354/99 吊られた男に3例、女帝に1例
036~040 0/95
041~045 0/97
046~050 0/95
051~0554/97 太陽に3例、死神13に1例
056~0602/98 死神13に2例
061~0658/97 審判に8例
066~070■■■24/95 女教皇21例、愚者3例、主人公がエジプトに上陸
071~0757/96 愚者に7例
076~0805/98 「クヌム神」に2例、「アヌビス神」に3例
081~08510/96 「アヌビス神」に10例
086~0906/95 「バステト女神」に6例
091~095■■14/99 「バステト女神」に1例、「セト神」に13例
096~1007/97 「セト神」に3例、DIOを撃つ!?に2例、ダービー(兄)に2例
101~10510/97 ダービー(兄)に5例、ホル・ホースとボインゴに5例
106~110■■13/97 ホル・ホース6例、ペット・ショップ7例、ディオの館登場
111~115■■15/99 ペット・ショップに11例、ダービー(弟)に4例
116~1207/98 ダービー(弟)に7例
121~1259/97 ダービー(弟)に7例、ヴァニラ・アイスに2例
126~130■■■21/97 ヴァニラ・アイスに21例
131~135■■■■34/98 ヴァニラ13例、スージー3例、DIO18例、ディオ登場
136~140■■■■■■■62/97 DIOに62例
141~145■■■■■■■62/97 DIOに62例
146~150■■■■■46/98 DIOに46例
151_15210/39 DIOに7例、遥かなる旅路に3例
合計383/2953

微妙な例があるので細かい数字には異同があるかも知れませんが、
おおまかな流れが分かれば良いのでひとまずは上記の計測で充分でしょう。
荒木割りペイジ数は合計383ペイジでした。
総ペイジ数は2953ペイジ、
荒木割りの比率は約13パーセント(100*383/2953≒12.9)です。
1エピソード(平均約20ペイジ)あたりの平均荒木割りペイジ数は2.6ペイジです。

上のグラフを見てもらえば分かるように
終局に近づくにつれて荒木割りの数が多くなっていますが、
ここで注目されるのは、
徐々に数が多くなっているわけではなくて、
急に数が多くなる時点がある、という点です。
あきらかに、
敵役のディオの登場にあわせて荒木割りの数が急増しています
各エピソードごとに平均荒木割りペイジ数を示してみます。

エピソード数・グラフ(一つが1ページ分に相当)
・平均荒木割りページ数・エピソードのタイトル
の順に示します。
001____ 0.0 悪霊にとりつかれた男
002~010 0.0 炎の魔術師の巻~奇虫襲撃!
011~013 0.0 銀の戦車
014~016 0.0 暗青の月
017~0190.3 力
020~022 0.0 悪魔
023~0260.5 黄の節制
027~0320.5 皇帝と吊られた男
033~0360.3 女帝
037~040 0.0 運命の車輪
041~046 0.0 正義
047~052 0.0 恋人
053~054◆◆1.5 太陽
055~0600.5 死神13
061~065◆◆1.6 審判
066~069◆◆◆◆◆◆5.3 女教皇
070~075◆◆1.7 「愚者」のイギーと「ゲブ神」のンドゥール
076~0790.5 「クヌム神」のオインゴと「トト神」のボインゴ
080~085◆◆◆2.2 「アヌビス神」
086~091◆◆1.2 「バステト女神」のマライア
092~096◆◆◆◆3.2 「セト神」のアレッシー
097____◆◆2.0 DIOを撃つ!?
098~103◆◆1.2 ダービー・ザ・ギャンブラー
104~108◆◆◆2.2 ホル・ホースとボインゴ
109~113◆◆◆◆3.6 地獄の門番ペット・ショップ
114~124◆◆1.6 ダービー・ザ・プレイヤー
125~132◆◆◆◆◆4.5 亜空の瘴気 ヴァニラ・アイス
133____◆◆◆3.0 スージー・Q・ジョースター 娘に会いにくる
134~151◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆10.8 DIOの世界
152____◆◆◆3.0 遥かなる旅路 さらば友よ

他のエピソードがおおむね平均3~4ペイジ台以下であるのに対し、
「DIOの世界」の平均10.8ペイジだけが突出しています。
二番目に多い「女教皇」の平均5.3ページと比べても約2倍あります。
「DIOの世界」の総荒木割りペイジ数は195ペイジですから、
全152エピソードの内のこの18エピソードだけで
全体の約半数の荒木割りが現れていることになります。
(100*195/383≒50.91)
第三部においてはまさに、
荒木割りはディオであり、ディオは荒木割りであるのです。

ディオと荒木割りの関係に注意して、
第三部を読み直してみることにしましょう。
単『ジョジョ』第13巻11ペイジ
ディオの棺桶が引き上げられます。
荒木割りか否かが微妙な例です。
単『ジョジョ』第13巻49ペイジ
単『ジョジョ』第13巻60ペイジ
はじめてディオの姿が描かれる場面と、
はじめてディオ自身が登場する場面です。
ここではまだ荒木割りは現れていません。
単『ジョジョ』第15巻73ペイジ
荒木割りのいちばん最初の例は
力(ストレングス)のスタンドのサルを描いたものでしたが、
2例目においてはやくもディオが現れます。
文『ジョジョ』第16巻265ペイジ
ディオがはじめて主人公一行の前に姿を現す場面です。
非常に大胆な荒木割りで描かれるこのペイジ以降、
荒木割りの数が急増することになります。
文『ジョジョ』第17巻30ペイジ
ディオがはじめて主人公一行と本格的に戦う場面です。
文『ジョジョ』第17巻60~61ペイジ
ディオの能力がはじめて本格的に発動される場面です。
文『ジョジョ』第17巻85ペイジ
全エピソード中もっとも荒木割り比率の高いエピソードです。
全19ペイジの内じつに16ペイジに荒木割りが現れます。
ディオが主人公の空条承太郎とはじめて対峙するエピソードでもあります。
文『ジョジョ』第17巻120ペイジ
承太郎に対してはじめて能力を使う場面です。
大胆すぎるほどの荒木割りです。
文『ジョジョ』第17巻284~285ペイジ
ディオが敗北する場面です。

このようにして見てみると、
とくに“主人公一行と対決するディオ”というのが、
荒木割りにとって非常に重要な契機になっている
ことが分かります。
ディオがはじめて荒木割りによって描かれたのは
テレビ越しに主人公一行に攻撃を加えた場面でしたし、
(第2例目の荒木割りでもあります)
荒木割り比率の急増は、ディオと主人公一行の直接対決に呼応しています。
また、全エピソード中もっとも荒木割り比率の高いエピソードも、
ディオと主人公がはじめて対峙するエピソードでした。
荒木割りはペイジ全体を傾けぶるぶると振るわせる手法でしたが、
そのとき発生するワク線と基準線のせめぎあいは、
そのまま、ディオと主人公一行とのせめぎあいでもあるわけです。
文『ジョジョ』第17巻296ペイジ
第三部に現れる荒木割りの最後の例です。
このあと第四部以降では、
いちいち計測するのが無意味なほど荒木割りが多用されるようになります。
単『ジョジョ』第63巻60~61ペイジ
第五部ではディオの息子が主人公になりますが、
その中での荒木割りの一例です。
非常に変則的かつ大胆なコマ割りです。
作品の内容ではディオは敗北しましたが、
作品の表現ではディオ(荒木割り)が勝利を収めた

と言えるのではないでしょうか。


◆ 漫画以外の荒木割り - アイリスショットと『カリガリ博士』
ところで、荒木割りは漫画だけのものなのでしょうか。

ここで注意しなければならないのは、
荒木割りは、
ペイジの端と基準線という二つの枠があって始めて可能になる

という点です。
枠が一つだけでは枠全体を傾けることは出来ません。
垂直方向の基準となる外側の枠があってはじめて、
内側の枠を“傾ける”ことが出来るのです。
図解:ワクを傾ける
次の例を見てみてください。
単『ジョジョ』第13巻93ペイジ
1ペイジぶち抜きの大きなコマが一つあるだけなので、
この例では枠は実質的に一つだけ(ペイジの端)と考えるべきでしょう。
一つの枠だけでも読者の平衡感覚を狂わせることは可能です。
(首を右に90度傾けるイメージ)
しかし、ここで傾けられているのはもはや、
枠ではなく絵そのものと言うべきです。
絵そのものを傾けずに枠だけを傾けて読者の平衡感覚を狂わせるには、
二つの枠がぜったいに必要なのです。
図解:絵を傾けるか枠を傾けるか

漫画が二つの枠を持つのはごく普通のことですが、
(だからこそ荒木割りが可能だったわけです)
これは漫画だけのことなのでしょうか。

漫画の比較対象としてまず挙げられるのは絵画と映画でしょうが、
これらは通常、一つの枠(額縁とスクリーンの端)しか持ちません。
僕の気が付くかぎりでは、
荒木割りに相当する例は映画のアイリスショットだけです。
古い映画で場面転換をする際の、
画面が端から暗くなっていって最後に丸く切り抜かれる手法を
覚えてはいないでしょうか。
あれがアイリスショットです。
有名な古典映画『カリガリ博士』を例に取ってみましょう。
● ウィキペディア日内「カリガリ博士」
  *夢遊病者が連続殺人を犯す話を精神病患者が語る、という、
  まさしく“奇妙な”映画です。
  荒木飛呂彦のファン好みの要素がいっぱいだと思うのですが、
  いかがでしょうか。
● 「INTERNET ARCHIVE」内「Moving Images>Movies>"Das Kabinett des Doktor Caligari"で検索」
  *『カリガリ博士』はしっかり著作権が切れているので、
  インターネットでタダでダウンロード出来てしまいます。
  ただし、英語の字幕に日本語訳はついていません。
  僕は「256Kb MPEG4(132 MB) 」(左メニュー「Download」欄内)を
  落としました。
上記ファイルで再生時間05:59、以下同様
[上記ファイルで再生時間05:59、以下同様]
これがアイリスショットです。
スクリーンの端とアイリスショットの縁という二つの枠があります。
上記のウィキペディアでは、
「本作品では、場面の切り替え以外でもアイリス・ショットを多用し、
 不安感をあおったり、注意を喚起したりする手法が多用されている。」
とされていますが、
これらの手法は二つの枠があってはじめて可能になるものです。

アイリスショットはふつうは丸い枠を使いますが、
『カリガリ博士』で注目すべきなのは、
ひし形の枠が使われているという点
です。
[29:31]
夢遊病者が女を殺すために部屋に忍び込もうとする場面です。
形のうえでは荒木割りとまったく同じです。
読者の平衡感覚を狂わせるためではなく不安感をあおるための手法
だとは思うのですが、
僕の気が付いたかぎりでは、これがもっとも荒木割りに近い例です。
さらに、
ひし形の中心とスクリーンの中心がずれていることも重要です。
(ひし形が左に少しずれている)
これによって不安感をあおるという効果がさらに強調されていますが、
同じことが荒木割りでも試みられていると思います。
単『ジョジョ』第63巻192~193ペイジ
コマが見開きペイジの中心をまたいでいます。
(コマ割りの中心とペイジの中心がずれている)
傾ける度合いを強めることによってより強く読者の平衡感覚を狂わせる例、
と言えるでしょう。
とくに『ジョジョ』第五部において多用される手法です。

なお、
アメリカやフランスでも素晴らしい漫画はたくさん描かれていますが、
荒木割りに相当するような例は無いように思います。
(少なくともこれほど多用される例は、僕は知りません)
表現理念が根本的に異なるので、
そもそもこのような表現が求められていないのかも知れません。
また、
ひとつの画面を複数に区切るという手法は、
イコン(キリスト教東方正教会の宗教絵画)や
マンダラ(密教の宗教絵画)でも普通に見られるものですが、
荒木割りに相当するような例は見つけられませんでした。
どちらも宗教絵画として形式が定められているので、
変則的な表現は受け容れられないのでしょう。
「日本」の「漫画」だけを特別に持ち上げてしまうと
逆に日本の漫画の可能性を狭めてしまう、
と僕は思っているので注意しなければならないのですが、
やはり荒木割りは日本の「漫画」独自のものなのかも知れません。
(むしろ荒木飛呂彦独自のものと言うべきでしょうか。
 理論的には、アメリカやフランスの漫画、イコン、マンダラなどでも
 荒木割りは可能なはずです)


◆ 最後に - 狂ったのは平衡感覚だけか
最後にもうひとつだけ。
荒木割りによって狂わされているのは、
僕たち読者の平衡感覚だけなのでしょうか?

● 「文芸ジャンキー・パラダイス」内「(ジョジョ総目次)>ジョジョ立ち教室」
荒木飛呂彦のファンのなかには
非常に奇妙な行動をとる人がいるようですが、
(作中人物の奇妙なポージングをみんなで真似て遊んだりしています。
 な、なんすかそれ。楽しそ……、いや何でもないです)
荒木割りによって狂わされているのは、
じつは、









「あなたの人生なのかも知れません」


以下の追記につづきます。
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - 追記
本記事の訂正について。
メモ:荒木割り数の訂正


荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - もくじ
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その1
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その2
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その3
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その4
# by moebius-labyrinth | 2006-12-18 17:41 | - 番外篇 -
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