生まれたばかりのスパゲッティーはカッペリーニと呼ばれます。
卵から孵ったばかりのカッペリーニはやがてフェデリーニになり、
川を下って海でスパゲッティーニになります。
そしてもう一度川に帰ってくるころには、
スパゲッティーニはスパゲッティーになり、
スパゲットーニになって卵を産んで死んでしまいます。
毎年冬になると、
イタリアのナポリの人たちは身の丈2メートルはあろうかという
大きな大きなフォークを造ります。
地元の言葉で「悪魔のフォーク」(フォーク・ディアブロ)と呼ばれる
そのスパゲッティー捕獲機をかついで、
近くの川の中流域に行って、
(上流まで行くとスパゲットーニしか獲れませんからね)
海から帰ってきたばかりの生きのいいスパゲッティーをからめ獲るわけです。
「ほうら見てみろ、今日は大漁だぞ、ジョバンニ」
「スゲーやパパー、ピチピチだね!」
そうやって獲ったスパゲッティーを家に持って帰ると、
マンマがそれに大量のトマト・ソースをぶっかける。
こうやって出来たのが、「スパゲッティー・ナポリタン」なのです。
あまったスパゲッティーは天日に干して干物にします。
これが、日本でよく見るスパゲッティーの姿ですね。
最近ではイタリアでも健康食ブームらしくって、
イタリアで売られている干物スパゲッティーの袋の裏には、
それを獲った漁師の写真が貼られるようになりました。
「ほほう、ナポリのアントニオなら腕っこき。
アントニオの獲ったスパゲッティーなら間違いあるまいて」
小粋なイタリアっ子たちは、
そうやってどの干物スパゲッティーを買うのか決めるわけです。
今夜の夕食はナポリタン。
もしそうなら、
スパゲッティーを茹でるまえに、
よおーく注意して端の方を見てみて下さい。
もしそれがスパゲッティーの頭の方なら、
ちゃあんとスパゲッティーの目が付いているはずですよ。
(付いていないなら、それはスパゲッティーの尾の方なのです)
「花は野に在る如く、
スパゲッティーは川に在る如く」
ナポリに伝わるこの言い伝えをちゃんと守って、
頭のほうを上にしてスパゲッティーを茹でるようにすれば、
今夜のナポリタンは、
きっといつもよりも美味しく出来上がるはずですよ。
「スゲーや、マンマのつくったナポリタンは世界一だね!」
「そうとも、このアントニオが獲ったスパゲッティーでもあるからな」
「あらあら、この人たちったら」
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昼食にカルボナーラを食べながら思いついたお話。
(いやまあ、これが事実なんですがね、今まで黙ってましたけど)